菌根とは


菌根とは、簡単には「植物の根と菌類とが作る共生体」と言えます。

中でも私が扱っているのは "ectomycorrhiza" 「外生菌根」または「外生菌根」と呼ばれるものです。日本語での呼び方については、岩波生物学事典には「外生菌根」で掲載されていますが「外生菌根」という言葉を使う人もたくさんいます。圧倒的にたくさん。ちなみに私は「外生菌根」派です。が、一人で抵抗するのも混乱を招くだけなので、ころびます。はいころんだ、外生菌根です。最初に書いてから20年以上経てばいろいろ変わりもします。


一口に菌根といっても、いろいろなものが含まれます。構造などから分類すると、アーバスキュラー菌根(旧VA菌根)外生菌根内外生菌根アルブトイド菌根モノトロポイド菌根エリコイド菌根ラン型菌根という7つのカテゴリーになる、とするのが一般的ですが、ハルシメジ型菌根のような少し違うものもあります。この中でメジャーなのはアーバスキュラー菌根、外生菌根、エリコイド菌根と、それに次ぐのはラン型菌根でしょう。

以前は長いこと "ectoendomycorrhiza" について限りなく私の造語に近いそのまんま直訳の「外内菌根」を使っていましたが、学術用語集に「内外生菌根」という言葉が載っていることを知り、あっさりそちらに転ぶことにしました。「エクトエンド」とも言います。

なお、菌根のタイプはこのように分かれますが、それぞれを形成する菌はそのタイプ専門とは限りません。同一の菌が複数のタイプの菌根を形成することがあります。例えば外生菌根を形成する菌の中には、共生相手によって内外生菌根、モノトロポイド菌根、ラン型菌根なども形成するものがあります。「~菌根菌」という呼び方は「~菌根を作って生活する菌」という意味であり、一つの菌の生活の仕方は一つとは限りません。分類上の名前ではなく、同じ菌が場面によって違う呼び方をされることもありますので念のため。

昔の分類~内生菌根と外生菌根

昔々、菌根は「内生菌根」と「外生菌根」とに分けられていました。根の中に菌糸が入って外には見えない「内生菌根」と根の外側を菌糸組織が包む「外生菌根」、ではなくて、細胞壁の中に菌糸が入り込む「内生菌根」と細胞壁の外にとどまる「外生菌根」です。細胞壁の内側(endo)に菌糸が入って栄養(troph)関係を結ぶ"endotrophic mycorrhiza"、直訳すれば「内部栄養性菌根」を「内生菌根」と呼び、細胞壁の外側(ecto)で養分授受を行う"ectotorophic mycorrhiza"「外部栄養性菌根」を「外生菌根」と呼んだのです。

しかし、この分け方は菌根に対する理解が進むと廃れました。「内生菌根」の定義に当てはまるものが、とても一括りにはできないほど多様であることが分かってきたからです。現在認識されている菌根タイプのうち、古い分け方でいう「内生菌根」に含まれるのは、アーバスキュラー菌根、エリコイド菌根、ラン型菌根です。しかしこれらはお互いに全く異なります。また「内生」とも「外生」ともつかないタイプである内外生菌根、アルブトイド菌根、モノトロポイド菌根もあります。旧「外生菌根」はほぼそのまま現在の外生菌根に相当しますが、定義から養分授受に関する部分が省かれて形態のみで示されることになり、用語は"ectotorophic mycorrhiza"から形態的特徴だけを示すよう"trophic"が省かれて"ectomycorrhiza"となりました。その変化を受けて「外生菌根」から"trophic"「栄養性」の部分を表現する「生」の字を抜いて「外菌根」とすべきという意見に私は賛成なのですが、語呂はよくないですね。学術用語集にもこちらで載っています。でもころびました。外生菌根でいいです。


菌根のいろいろ

アーバスキュラー菌根

昔の「内生菌根」を代表するグループです、というとちょっと語弊があるのですが、そのように扱われることもありました。もっとも広汎に見られる菌根であり、その意味では全菌根中の筆頭に挙げるにふさわしいでしょう。

アーバスキュラー菌根

アーバスキュラー菌根は、草本をはじめとするほとんどありとあらゆる陸上植物の根に形成される菌根です。これをつけない植物は例外的で、アカザ科、アブラナ科などごく一部です。樹木にもつきますが「草の菌根」というイメージが強く、緑化資材や農業資材として実用化されています。アーバスキュラー菌根性の樹木は熱帯地方に多いのですが、日本に多く植えられているスギやヒノキはアーバスキュラー菌根性です。

アーバスキュラー菌根の構造はシンプルで、根の細胞内に侵入した菌糸が「樹枝状体」"Arbuscle" と、ものによっては「嚢状体」"Vesicle" とを形成します。根の外部にはいくらかの菌糸体がまとわりつきますが、根の外見上はあまり変化が見られません。この菌根はかつては VA 菌根と呼ばれていました。これは "Vesicular-Arbuscular Mycorrhiza" の意味です。嚢状体は見られないこともあるので、最近では "Vesicular" を取って「アーバスキュラー菌根」あるいは "AM" と呼ばれるようになりました。学術用語集には「V-A菌根」で載っていますが、これについてははっきり古くなってしまったと言えます。なお、細胞内に入るといっても、サビキンなど一般の生物寄生菌同様、細胞膜は破りません。

アーバスキュラー菌根はさらに二つのサブタイプに分けられ、それぞれアラム型(Arum-type)、パリス型(Paris-type)と呼ばれています。なお、このカタカナ表記は英語風です。元々これらは植物の属名からきたことを考えると前者は日本語風にアルム型と呼ぶべきかも知れません。アラム型では表皮細胞に侵入した菌糸は多少コイルを形成し、ついで皮層の細胞の間に菌糸を伸ばしつつ、あちこちの細胞に菌糸を侵入させて樹枝状体を形成します。菌糸が植物の細胞と細胞の間を伸びるため、比較的早く広い範囲に広がることができます。これに対し、パリス型は皮層の細胞の間に菌糸を伸ばすことはせず、侵入した細胞内でコイルを形成しながら細胞から細胞へと次々に侵入を繰り返して広がります。このタイプでは菌糸が細胞を貫いて伸びるため発達はゆっくりです。

アーバスキュラー菌根の機能としては、リン等の吸収促進、耐病性の向上、水分吸収の促進の3つが主なものとして挙げることができます。このため、アーバスキュラー菌根が形成されると作物は乾燥に強くなり、肥料分の乏しい土地でも効率よく養分を吸収してよく育つようになります。これらは根から外部に伸びる菌糸のはたらきによるものとされています。

アーバスキュラー菌根菌は絶対共生菌として知られており、菌だけの純粋培養ができません。そのため接種源生産のためには植物と共生した状態で増殖させます。分類群としてはかつては接合菌門に属するとされていましたが、現在では独立させてグロムス門(Glomeromycotaを便宜的にこう訳しましたが正式な日本語の学術用語は未だ合意に至っていません―「グロメロ菌門」と訳す人もいますが思うところあって私はグロムス門を採用)とされています。通常は根の外側に大型の胞子嚢胞子を形成します。菌によっては0.1mmにも達するような超大型の胞子を形成するため、wet shieving(湿式篩別)法で胞子を集めることができます。これは胞子を含む土壌を水に懸濁させて適当な篩を何段階か通すことによって胞子だけを得る方法です。比較的大型の胞子を形成するものは、実体顕微鏡で見ながら1つ1つピンセットで拾い出すこともできます。この胞子は非常に高い耐久性を持っています。また、一部の菌は塊状の子実体(きのこ)を形成します。驚くべきことに、それを専門に食べる昆虫もいます。

絶対共生菌であるアーバスキュラー菌根菌は植物から光合成産物を受け取って生活していますが、反対にアーバスキュラー菌根菌に寄生する植物もいます。これについてはモノトロポイド菌根の項目のあとの番外で。

外生菌根・内外生菌根・ハルシメジ型菌根

外生菌根は森林の樹木の菌根であり、ちゃんとした推定はまだのようですが、全地球的にはきわめて大きなバイオマスがあるだろうと考えられています。優占する面積も広大です。

外生菌根

外生菌根は、主に樹木の根に形成される菌根です。外生菌根性の樹種はこんなグループに属しています:

マツ科 Pinaceae
マツ属Pinus
モミ属Abies
ツガ属Tsuga
トウヒ属Picea
カラマツ属Larix
ブナ科 Fagaceae
ブナ属Fagus
コナラ属Quercus
カバノキ科 Betulaceae
カバノキ属Betula
ハンノキ属Alnus
フタバガキ科 Dipterocarpaceae
フタバガキ属Dipterocarpus
サラノキ属Shorea

フタバガキ科は東南アジアでは巨木になり、熱帯林の持続的利用のために菌根を利用した植林技術が研究されています。また Shorea robusta Gaertn. f. は沙羅双樹としても知られています(日本にはこの種はないので、代わりにナツツバキが沙羅双樹と呼ばれているようです)。その他のグループは言わずと知れた北半球温帯の主要構成樹種で、多数の林業上重要な樹種を含みます。他にもいろいろな樹木が外生菌根を形成します。日本ではマイナーな花木のハンニチバナ科 Cistaceae や、バラ科のチョウノスケソウ属 Dryasも外生菌根性です。南半球ではブナ科のナンキョクブナ Nothofagus の仲間やフトモモ科のユーカリ属 Eucalyptus が有名ですし、同じくフトモモ科のギョリュウバイ(御柳梅、ネズモドキあるいはマオリ語でマヌーカともいう蜜源植物、この蜂蜜は近年「マヌカハニー」の名で輸入されています) Leptospermum scoparium といった植物もあります。

外生菌根性の草本もあり、そのようなものを含む属としては、カヤツリグサ科のヒゲハリスゲ属 Koblesia、クサトベラ科の Goodenia、ブルノニア科の Brunonia、タデ科のイブキトラノオ属Bistorta(例えばムカゴトラノオ)といったものがあります。

外生菌根を形成する菌類にはよく知られたきのこ類がたくさん含まれています。そのため、それについては、別項にまとめました。

外生菌根の構造は、基本的には根の表面を包む菌鞘と、根の細胞の間に入り込んだ菌糸でできたハルティヒ・ネット、及び根の外に伸びる菌糸からなります。菌糸は根の細胞壁の外側にとどまります。このハルティヒ・ネットを介して、菌と植物とが栄養などのやりとりをしているとされています。植物からは主に光合成産物、菌からは主に窒素やリンなどの肥料分と水が相手に渡されます。菌が植物ホルモン様物質を合成して、発根を促すなど形態形成に影響を与えるのも恐らく普通です。

また、菌根は根粒と違って窒素固定は行いません。ただし、菌根においても表面や菌鞘内部にいる細菌が窒素固定をすることがあり、見かけ上菌根で窒素固定が行われることがあります。

外生菌根の機能として、よく言われるのが「養分吸収の補助」「病害抵抗性の向上」です。肥料分の少ない土壌においては、菌根菌の接種によって樹木の生長は大きく促進されます。ただし肥沃な土地ではこの機能は目立ちません。また、菌根化することによって土壌病原菌に対しても抵抗力が大きく向上します。

しかし、むしろ樹木に菌根はあって当たり前、ないのは異常です。牛が反芻胃の中の微生物なしには草を消化できないように、菌根性の樹木は菌根なしではまともに生育できません。これは南半球にマツを植林したときに問題になりました。もともとマツは南半球には分布しないので、南半球にはマツの菌根菌がいなかったのです。菌根菌が持ち込まれて、初めてマツの植林が成功するようになりました。例えばニュージーランドのラジアータマツの植林地では、季節(2-3月頃)には走る車の中からも見つけることができるほど立派なベニテングタケが発生していたりします。これは北半球から導入されたものだとあちらの研究者に教わりました(狙って持ち込んだのか苗木に勝手に付いてきたのかはたずねませんでしたが―いずれにせよ思いっきり外来種ですね)。

また、菌根菌の菌糸は物質循環にも大きくかかわっていることが認められるようになってきました。植物遺体中の肥料要素はいったん無機化されて土壌溶液となって植物に吸収されると考えられてきましたが、菌根菌の菌糸は無機化が起こるそばから、時には有機態のまま吸収して、いわばショートカットをすることが分かってきました。また、母岩由来の成分は風化に伴いゆっくりと土壌中に放出されると考えられてきましたが、菌根菌の菌糸が有機酸で積極的に岩石を溶かしてリンなどの元素を吸収していることも明らかになってきました。

内外生菌根

内外生菌根はこれと似ていますが、菌鞘があまり発達せず、菌糸が細胞壁の内側にまで侵入しています。しかし細胞膜は破りません―破れたら細胞は死んでしまいます。針葉樹(マツ属及びカラマツ属)と一部の子嚢菌(Wilcoxina mikolae, W. rehmii など)が作る菌根です。攪乱を受けたサイトに生えるこれらの樹木の実生によく見られるそうです。このタイプの菌根についてはまだ十分に詳しく調べられていません(と書いてから20年)。

ハルシメジ型菌根

これについては独立したタイプとは扱わない考え方もあります。バラ科・ニレ科の一部の樹木とハルシメジの仲間のきのこが形成する菌根で、冬から春にかけてのみ現れ、春にきのこが発生すると菌根も消えてしまいます。外見は外生菌根に似ていますが、内部では根の皮層組織が破壊され、菌が寄生的に振る舞っているものと考えられています。菌根の形態記載で著名な R. Agerer も1993年に Mycorrhiza に載った論文でそう述べています。以前この分野における日本の第一人者である茨城県林試の小林さんに実物を見せていただいたことがありますが、菌根が崩壊する前にピンク色の厚壁胞子を形成するなど独特の生態に関連しそうな性質を持った菌根でした。

ツツジ目の菌根

ツツジ目 Elicales に属する植物には、独特な菌根を作るものが知られています。「ツツジ」と聞くと美しい花をつけるツツジ属 Rhododendron を連想しがちですが、ブルーベリーなどを含むスノキ属 Vaccinium や、ヨーロッパの荒れ地に生えるヒース等を含むエリカ属 Erica もツツジ目ツツジ科 Ericaceae です。また、ツツジ科には数多くの高山植物が含まれます。

アルブトイド菌根

ツツジ科のイチゴノキ亜科 Arbutoideae イチゴノキ属 Arbutus やクマコケモモ属 Arctostaphylos 、シャクジョウソウ亜科 Monotropoideae のイチヤクソウ属 Pyrola に形成される独特の菌根です。イチゴノキ属は日本ではあまりなじみのない植物ですが、欧米では有名でイチゴノキ Arbutus Unedo L. 等があり、庭木として利用されます。クマコケモモ属も日本ではあまり知られていない主にアメリカ産の植物で、ウワウルシ Arctostaphylos Uva-ursi Spreng. やマンザニタ A. manzanita Parry が含まれます。

一般に外生菌根菌として知られる菌がこれらの植物と共生すると、粗い菌鞘と皮層細胞内に侵入してとぐろを巻いた菌糸を特徴とするアルブトイド菌根が形成されます。

イチヤクソウ属の植物は葉緑素のある葉を持っていますが、光合成能力は十分ではなく、鉢植えにしたり周囲の植生の異なる場所に移植したりしてもまず活着しないそうです。光合成能力が不足する部分を菌に頼っていると考えられています。そのためイチヤクソウの仲間は単独での栽培がほとんど不可能です。また、種子の発芽にも後で述べるラン科同様に菌が関与していることが最近明らかになりました。

モノトロポイド菌根

ギンリョウソウの花ツツジ科シャクジョウソウ亜科 Monotropoideae のシャクジョウソウ属 Monotropa やギンリョウソウ属 Monotropastrumに形成される菌根です。シャクジョウソウ属の学名を元に名付けられた(モノトロパ→モノトロポイド)菌根タイプです。ギンリョウソウ Monotropastrum humile はユウレイタケなどとも呼ばれる葉緑素を持たない真っ白な植物で、雑木林で初夏に時々見かけます。この記事を最初に書いた頃のクロンキスト体系ではシャクジョウソウ科はイチヤクソウ科 Pyrolaceae に含められたり独立したりでしたが、現在のAPG体系ではどちらもシャクジョウソウ亜科に含まれています。

シャクジョウソウ亜科の植物は光合成は行わず、生活に必要な栄養分は何もかも菌根菌に依存していると考えられています。何らかの見返りを与えているのかも知れませんが、要するに「植物が菌に寄生している」という関係です。モノトロポイド菌根を作る菌は、一方で外生菌根菌でもあります。同じ菌がシャクジョウソウ科と共生するとモノトロポイド菌根を、樹木と共生すると外生菌根を形成するわけです。それらの菌は外生菌根菌ですから一般に土壌有機物を分解吸収したりすることはできず、外生菌根を形成する樹木から養分を獲得するしかありません。その一方でシャクジョウソウ亜科植物には養分を吸い取られてしまいます。つまり、シャクジョウソウ亜科植物は菌根菌を介して樹木から養分を吸い取っていることになります。

エリコイド菌根

ツツジ科 Ericaceae に形成される独特の形状と構造、生態を持った菌根です。ツツジ科植物の吸収根は極めて細く、断面の細胞数が数えられるほどで、"hair root" (root hair 根毛とは別物、もちろん hairy root 毛状根とも違います)と呼ばれます。時には数個の細胞だけからなるその皮層に菌が定着したものがエリコイド菌根です。「ツツジ型菌根」と呼ばれることもありますが、Ericoid そのまんまを避けるとしても「エリカ型」か「ツツジ科型」じゃないかなぁ、という気もします。それはさておき、このタイプでは菌糸が細胞壁の内側に侵入します。菌としては「暗色で有隔壁の菌」が多く、子嚢菌のチャワンタケの仲間が中心のようです。

エリコイド菌根を持つ植物には高山や泥炭地など厳しい環境条件にも耐えるものが多く存在します。例えば泥炭地では腐植酸などによって土壌が強い酸性になり、そのこと自体もさることながらそれによって重金属が溶出してくることもあり、通常の植物には生育が困難です。エリコイド菌根は環境中の有害物質の作用を緩和するため、エリコイド菌根植物はそのような環境に耐えることができます。また、泥炭地などでは植物遺体中の窒素やリンが無機化されにくく、植物には直接利用できない有機態のまま閉じこめられ、きわめて貧栄養な環境になっています。エリコイド菌根菌は高分子を含む有機態の窒素を分解吸収し、有機態リンを無機化して植物に供給することができるため、有機物の分解が進まない環境に生育する宿主植物の適応度を高めています。

ラン型菌根

ラン科 orchidaceae に属する植物はいろいろ独特な性質を持っていますが、その菌根もまた他の植物には見られない独特なものです。全体に植物が菌をうまく利用しているような関係と捉えられており、ランはその生活史のうち少なくとも一部、種類によっては全部を菌に依存しています。ごく大雑把に言えば、ランは菌根で菌に寄生しています。

# 世にも珍しい菌まんが「もやしもん」では、ランは「女王様」ふうに描かれていましたね。「三枝教授」には登場するでしょうか。

ラン型菌根

ランと共生する菌は他のタイプの菌根を形成するものとは大きく異なり、ラン型菌根菌には単独で腐生的に生活する能力を持つものがたくさん(全てではない)あります。なお、園芸方面では略して「ラン菌」と呼ぶこともありますが、卵菌Oomycetes(菌とは言うものの今はオピストコンタ[Opisthokonta]上界の菌界ではなくビコンタ[Bikonta]上界のストラミニピラ[Straminipila]界に属しむしろ植物のお隣さんです)と紛らわしいので菌学方面では略しません。中にはナラタケArmiralia sp.や昔のRhizoctonia sp.などのように植物病原菌を含むグループの菌もあります。なお、Rhizoctoniaは不完全菌としての名前で、完全世代が解明されるとかなり多様な菌群であることが分かってきました。ランと共生するのはRhizoctoniaの中でも完全世代がTulasnellaSebacinaに相当するものだそうです。

# 十何年か前、この辺に全然興味なかった頃Sebacinaを知らなかった(さすがにRhizoctoniaの解体は知ってたんですが)せいで恥をかいたおぼえが。

# 私は以前このタイプを「ラン菌根」と呼んでいましたが、H大学のK先生にあっさり論破されて転向しました。このあたりは専門ではないし。

ラン型菌根では、皮層の細胞内に菌糸が侵入し、中でとぐろを巻いたり鞠のようになったりと変形し、ペロトンと呼ばれる構造を作ります。最終的には菌糸は分解され、植物に吸収されます。共存期間中には物質交換も行われ、基本的に無機栄養も有機物も菌から植物に移行しますが、緑色ランには植物から菌に同化産物が移動するものも一応あります。と習ったのですが、今では否定されているかも知れません。

ランの生活史の中には、自然状態では必ず菌に依存するというステージがあります。種子が発芽して幼植物になるまでです。ランの種子は非常に微細でダスト・シードと呼ばれます。このような種子には未分化な胚があるだけで胚乳はなく、貯蔵養分をほとんど持っていません。そのため自力で発芽することはできません。

ランの種子が発芽するときは、吸水した種子に菌根菌が侵入し、外から養分を運び込みます。それによって胚発生が始まり、原茎体(プロトコーム、protocorm)を経て幼植物となります。この過程を菌発芽と呼びます。ただし、ランの種類にもよりますが、菌と共生させる代わりに糖などを含んだ培地に播種することで無菌的に発芽させることが園芸分野では一般的に行われています。また、洋ランを種子によらず組織培養によって増殖させるのはもはや当たり前です。


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