菌類

菌類は、従属栄養生物であり、他の生物やその遺体などから吸収によって養分を獲得しています。細胞壁を持ち、多くは管状の細胞がつながった菌糸を形成し、胞子を形成する、基本的に運動性のない微生物です。そしてもちろん真核生物です。極めて簡単(簡単すぎ?)にその概要を紹介します。

菌界は担子菌門、子嚢菌門、接合菌門、ツボカビ門、Glomeromycota(日本語での名称はまだ定まったものがなく、私はいろいろ考えた末に和名は「グロムス門」でもいいんじゃないかと思っています)の5門からなっているというかなり昔の考え方を元にしています。その直後に大変動が起こり今も変化が続いているので。あと小規模の独特な目については手に負えないので扱っていません。

ここに挙げたものの他に、昔は卵菌、サカゲツボカビ、ラビリンツラなども菌類に含められていましたが、最近ではこれらは菌類(菌界)とはすごく縁が遠いビコンタ(バイコンタ)上界Bikontaのストラミニピラ(ストラメノパイル)界Straminipilaに属することが分かっています。これらのすぐ近くに狭義のいわゆる植物、植物界Plantaeが位置づけられています。菌界の属するオピストコンタ上界Opisthokontaには動物界Animaliaも属しています。ちなみに日本菌学会では菌界に所属しない菌類「偽菌類」も明示的に取り扱う対象にしています。

こういうものは時代とともに書き換わっていくものなので、最新の情報を得るには新しい教科書や引用されている総説を探して下さい。21世紀初めには元記事を書く材料になった大学で習った知識が大半お払い箱(←言いすぎ)になって、例えば接合菌が解体されたり大変なことになりましたが、そのものを解説する根性というかそこまでの分類学の知識はないです。

これを書いてだいぶ経ってからちょっと見直して、グロムス類の位置付けを少し変更しました。 Bruns et al. (2017) を基準にして、門から亜門に格下げしています。


担子菌 Basidiomycota

有性胞子は担子胞子です。これは典型的には、担子器と呼ばれる特別な細胞の中で減数分裂が起こり、その結果生じた4個の単相の核(染色体1セットのみ含む)がそれぞれ1個の胞子の中に入ったものです。担子胞子は発芽すると一次菌糸となり、異なる性の一次菌糸を見つけて融合し、典型的には1細胞に単相の核を2個含む二次菌糸となり、ふつう核融合は担子器の中で初めて起こります。菌糸には複雑な構造の孔を持つ隔壁があり、多くの担子菌の隔壁部分にはクランプコネクションというこぶ状の付属物が見られます。この担子菌というグループにはシイタケ Lentinula edodes などのいわゆるきのこらしいきのこが属し、カサの裏はヒダがあってその表面に担子器が並んでいます。その他カサの裏が管孔や針状になったもの、カサを開かず団子状で成熟し、担子器を内部に形成するものなどもあります。きのこを作らず菌糸体表面に直接担子器をつけるもの、植物に寄生して特殊な構造を作るものなどもあります。無性的に分生子を作る(減数分裂など特別な出来事なしに体の一部が胞子になること、遺伝的には親のクローン)こともあります。生活の本体は基本的に菌糸ですが、酵母(生活形を表す言葉で、単細胞で出芽または分裂して増殖する菌類のことです)になるものもあります。

これは2023年になってもあんまり変わっていません。

子嚢菌 Ascomycota

有性胞子は子嚢胞子です。これは子嚢と呼ばれる袋状の器官の中で減数分裂が起こって形成され、通常子嚢1個あたり8個、時に16個(とかいろいろ)が入っています。このほか無性的に分生子を作るのこともよくあります。酵母の生活形をとるものもあります。菌糸には単純な構造の隔壁があり、1細胞あたり1個の単相の核を含みます。アカパンカビ Neurospora crassa など多くのカビがこの子嚢菌というグループに属します。いわゆるカビの仲間の正体は多くが子嚢菌ですが、有性的な胞子を作らず分生子だけで増えるようになって、不完全菌として扱われているものもありますが、最近では分子的手法でその正体がどんどん明らかにされつつあります。また、きのこを作るものもあります。きのこを作る子嚢菌にはチャワンタケ類やトリュフ類 Tuber spp. があります。

これは2023年になってもあんまり変わっていないようです。

(旧)接合菌 Zygomycota

有性胞子は接合胞子です。これは核型の異なる二つの菌糸上に形成された配偶子嚢が接合して形成される胞子で、形成の基本パターンは配偶子嚢同士が接触すると菌糸体の他の部分との間に隔壁が形成され、同時に接触部が融合して全体が一つの胞子となる、というものだそうです。無性的には分生子を形成します。菌糸体は隔壁がない多核体です。隔壁がないため物質の輸送能力が(少なくとも潜在的には)高いと考えられ、また生長速度が極めて高いものもあります。クサレケカビ Mortiellera spp. やケカビ Mucor spp. を含みます。一部(Endogone 科の一部とRedeckera属の一部など)は肉眼的なサイズのきのこを作ります。

これは2020年代には「ケカビ門 Mucoromycota」に再編され、後述のグロムス門を「グロムス亜門 Glomeromycotina」として含むようになっています。

グロムス門(←注釈は古い話ですのでご注意) Glomeromycota→グロムス亜門 Glomeromycotina

有性生殖器官は知られていません。外見上明らかに子嚢菌や担子菌とは異なるため、不完全菌としては扱われず長い間接合菌に入れられていましたが、今世紀に入り独立門とする考え方が一般的になりましたが、また元の鞘に収まりました。日本語の名前はまだ定まっていませんどうやらこれでいいようです。すべて絶対共生者で、アーバスキュラー菌根を形成して生活します(Geosiphonはシアノバクテリアと細胞内共生)。隔壁を持たず、種類によっては数百マイクロメートルに及ぶ巨大な胞子を形成します。Glomus spp. や Gigaspora spp. が代表的です。今のところわずか150種ほどが知られるのみで、これより少ないかもしれません。上記の通り団子状のきのこ(胞子果)を作るものも知られています。日本地下生菌研究会会報5巻2号の大和先生の記事を紹介しておきます。

2020年頃には「ケカビ門 Mucoromycota グロムス亜門 Glomeromycotina」として取り扱われるようになりました。

ツボカビ門 Chytridiomycota

菌類としては例外的に、細胞後端に1本の鞭毛を持ち運動性のある遊走子を形成します。この「細胞後端」がポイントで、真核生物の中のオピストコンタ上界に属する証です。ヒトを含む動物もオピストコンタで、精子の鞭毛がその証拠です。壺のような体の中身全部が遊走子になる全実性のもの、少数ですが仮根状菌糸体に壺のような遊走子嚢を作るもの、その中間のものがあります。遊走子は水中を泳ぐ細胞ですから基本的に水生ですが、土壌粒子の間の水も微生物にとっては水なので、土壌中で生活するものもいます。900種あまりが知られており、一部に植物病原菌もあります。藻類に寄生するものはその消長を支配するなど生態系の動きに大きく関わっていることが分かってきました。また、ただ一種カエルツボカビのみが脊椎動物(カエルなど両生類)に病原性を持ち「カエルツボカビ症」を起こすことが知られています。


不完全菌は、有性生殖器官が知られていない菌類で、子嚢菌や担子菌のように有性生殖器官に基づく分類を行うことができません。そのため無性的な器官による便宜的な分類が行われています。無論その実用的意義を軽視するものではありませんが、一つのまとまりを持ったものとして扱うことはできません。「不完全菌」とは、「分類不可能だが明らかに子嚢菌または担子菌に属する菌類を仮に入れておく『未決箱』」なのです。分子系統解析により急速に解明が進みつつあります。

2010年代には解明から急速に消滅に向かいました。2012年の植物命名規約「メルボルン規約」により、有性世代と無性世代とに別々の名前を与えることが許されなくなりました。昔は有性世代がないと子嚢菌か担子菌かすらはっきり分かりませんでしたが、今では塩基配列から明らかです。無性世代に与えられた学名でも、先取権があれば仮のものではなく正式なものとなります。ただし歴史的なものについては取捨選択が行われました。

詳しくは青木孝之先生の「真菌類の二重命名法の廃止に伴う学名統一議論の動向─いもち病菌等を例に─」Microbiol. Cult. Coll. 30(2):157- 162, 2014等をご覧下さい。日本微生物資源学会誌第30巻第2号から閲覧できます。


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