外菌根を形成する菌は、主に担子菌(いわゆるきのこの類)、ついで子嚢菌(いわゆるカビの類)、ごく一部が接合菌です。子嚢菌にも大型の子実体(胞子を形成する器官)、即ちきのこを作るものがあります。接合菌でもきのこを作るものもないわけではありません。
なお、きのこという言葉は系統的にまとまった一群の生物を指すものではありません。種種雑多な菌類の作る大型子実体を総称する言葉です。
代表的な菌根性きのこのグループには、たとえば次のようなものがあります。それぞれの分類学的な位置などは図鑑などを参照して下さい。…今世紀に入って大規模な再編があって菌類の上位分類は「ガラガラポン」状態なのであんまり参考にならないかも知れませんが。
ここに挙げたほとんどは担子菌で、最後のセイヨウショウロタケ属(これはトリュフと言った方が通じるでしょう)のみが子嚢菌に属します。もちろん他にもたくさんあります。実際には不完全菌にも菌根菌 (e.g. Cenococcum geophilum) はありますが、不完全菌だけあってきのこは作りません。
この他に、商業的に利用される極めて有名な菌根菌に、コツブタケ Pisolithus tinctorius があります。この菌は鶏卵~握り拳ほどの大きさの、それ自体には利用価値のない塊状の毒きのこですが、荒れ地に菌根性樹木を植える時に接種するのに用いられています。アメリカにはこれの培養菌糸を販売する業者もあります。
外菌根(外生菌根)を作る菌類は、英語では ectomycorrhizal fungi と呼ばれます。これを省略して "EMF" と呼ぶこともあります。が、お願いですから「菌根菌」を「EM菌」と一緒にしないで下さい。たしかに fungi の略の"F"だけを日本語にしたら「EM菌」になってしまいますが、それだけはどうかご勘弁を。それでは全然別のもの、ニセ科学のたぐいになってしまいます。うう、キーボードを打つ手が腐りそう。「EM菌」は「有用微生物」 effective microbe の略だそうですが…打ってて吐き気がしてきた。だめだ。詳しくはネットで検索して下さい。「ニセ科学」「EM菌」あたりをキーワードにすればぞろぞろ出てくるでしょう。大阪大学の菊池誠先生とか、ニセ科学と戦う人たちはえらいと思います。ぼくにはとてもできない(というフレーズには知名度の低い元ネタあり<リスペクトしているのは本当です)。
これらの菌類は、樹木の根と菌根を形成して生活しています。菌は樹木から光合成産物を受け取り、樹木は菌から窒素やリンを受け取っています。そのため、菌根菌には腐生菌が持っているような木材を分解する能力がほとんどありません(少なくとも通常は発現していません)。炭素源は樹木からブドウ糖の形で受け取るので、単独ではショ糖すら利用できないものもあります。その一方でデンプン分解能を持つなどある程度腐生能力を持つものもあります。
2011.09.09追記、09.12改訂、09.13脱線、2012.04.04更新:菌根性きのこは、土壌中からカリウムを吸収する能力もあります。肥料の三大要素N, P, Kのいずれも集めるわけです。菌根を付けた植物の方が付けていないものよりN, P, Kを多く吸収するということは古くから知られています(Mycorrhizal Symbiosis 3rd Edition p.350)。土壌中に希薄に存在するカリウムを集めることができるということは、セシウムも存在すれば集めてしまいます。カリウムとセシウムとは同族元素であるため化学的性質が似ており、生化学的な振る舞いがよく似ているからです。
核分裂生成物である放射性セシウム(134:半減期約2年、137:半減期約30年)も環境中に存在すれば吸収されます。食品としてのきのこは暫定基準値100Bq/kgです。菌根研究会のサイトに掲載されているデータによるとTF(移行係数)は0から23.7に及びます(Vinichuk and Johanson (2003)読んでおかなければ)。ただしこれは乾燥重量ベースであり、きのこの概ね90%は水分なので、実際には最大2.4ということになります。セシウム137に汚染された地域では知られている限り最大で土壌の2.4倍の濃度のセシウム137を含むきのこが採れるかも知れません。追記ここまで、これは明間民央が収集した(というよりもらった)公開文献情報をまとめたものであり林野庁や厚生労働省の見解などとは関係ありません。
また、生きた樹木と歩調を合わせて生長するためか菌根菌の多くは腐生菌より生長が遅く、また栄養的にもビタミンB1を要求するなど、培養しにくい場合がよくあります。そのため、菌根性きのこの純粋培養による人工栽培は非常に困難とされてきました。
ただし、ホンシメジはデンプンを分解できるなどの特徴から、人工栽培技術が完成しています(太田 1998, 日本菌学会報 39(1): 13-20)。今後他の菌根菌にも純粋培養によって栽培可能なものが現れるかも知れません。