最近どんどん伸してきている発光ダイオードについて、よく誤解されていることをちょっとだけ。新しい機械には光源にこれを使っているものが増えてきましたが、その特性として「冷光」「長寿命」が謳われることがよくあります。しかし、これは決して「発熱しない」でも「劣化しない」でもありません。
「冷光」というのは光出力のスペクトルに熱線成分を含まないという意味です。ハロゲンランプなど白熱電球には熱線出力が多いので、標本に照明光が焦点を結ぶクリティカル照明では標本の熱線による加熱が問題になりましたが、発光ダイオード光源ではこの問題はありません。もちろんケーラー照明でも熱線は邪魔なだけなので光源が熱線を出さないのはよいことです。「冷光」の意味はこれ以上でも以下でもありません。
発光ダイオードといえど、必ずしも素子自体が冷たいまま光を放つわけではありません。2008年時点ではエネルギーを光に変換する効率は高いものでも3割に届かず、投入電力のおよそ3/4は熱になってしまいます。つまり強く光らせれば相応に素子が発熱するということです。そして、白色発光ダイオードの多くは青色(またはより短波長の)発光ダイオードに蛍光体を組み合わせて製造されていますが、発光ダイオード素子そのものも蛍光体も熱には弱いので、発熱させるとどんどん劣化します。適切な熱設計が行われていれば心配することはありませんが、電気ももったいないし、点けっぱなしはやめましょう。当たり前ですね。
ちなみに、前述の通り一般的な「白色」LEDは青色LEDと黄色蛍光体の組み合わせなので、スペクトルを見ると青に急峻なピーク(これがいわゆる「ブルーライト問題」の原因)があってちょっと谷があって蛍光体のなだらか(ものによる)なピークが続きます。決してフラットなものではありません。ということは、色再現性が必ずしも高くないかも知れないと予想されます。色が重要になる用途では注意して使用すべきです。また、コストが高いので多くはありませんが「三原色式白色LED」というのもあり、この場合はRGB (Red, Green, Blue)の3色のLEDチップを使って白色光に見える光を作っています。当然のことながらスペクトルは3つの山でできています。RGBそれぞれのチップを駆動するのに独立した電源制御が必要になるため高コストですが、逆にアクティブな制御で望む色(ただし人間の視覚にとっての)を作ることができます。とはいえ顕微鏡光源にはあんまり関係ないでしょう。
ここまで2008年の記述にわずかに手を加えたもの。2014年には変換効率が30-50%までこの値は以前のものも含め高すぎるようなので要確認向上しています。
LED (light emitting diode)の発光原理は、「ダイオードの中で電子と正孔が結合するときのエネルギーレベルの差(バンドギャップ)に相当するエネルギーが光として放出される」というものだそうです。そのため、材料の組み合わせによって決まるバンドギャップによって光の波長はほぼ一意に定まります。そのため、LEDのスペクトルを見ると特定の波長にシャープなピークが見えます。赤色であれば625-660nmのどこか、黄色は590nm前後、緑色は525-560nmのどこか、青色は470nmくらいです。この他にもいくつかの色があります。紫外(紫)として売られているものは、今のところ390nmくらいのようです。蛍光顕微鏡の励起光にはちょっと長波長。
参考までに、白黒フィルムでの撮影によく使われたフィルターの波長特性をいくつか。無色に見えるUVが370nm、かすかに色づいているスカイライト(これは本来カラー用ですが)が390nm、鮮やかなオレンジのO56が560nm、視野が極端に暗くなる暗赤色のR64が640nmが透過限界波長で、これより短い波長をカットします。つまり、人の目に見えているのはだいたい380-650nmくらいということになります。その中でも感度はフラットではなく、555nmの緑色で一番感度が高いそうです。
白色LEDは、上にも書きましたが「蛍光灯の一種」です。いわゆる蛍光灯は水銀蒸気中のアーク放電で発生する紫外線(250nmくらい)を励起光としてガラス管の内面に塗布した蛍光体を光らせますが、白色LEDでは青色LEDを励起光源として黄色の蛍光体を光らせて、合計して人間の目には白く見えるようにしたものです。電球色LEDやピンクLEDなんかも同じ仕組みで、蛍光体の色違いです。高演色タイプには励起光源に紫色LEDを使ったり複数の蛍光体を使ったりと工夫したりしたものもあるそうです。いずれにせよこれらは本質的に蛍光灯なので、上記赤・黄色・緑・青といった直接発光のいわば「純色LED」とは光の質が異なります。上にも書いたとおり三原色LEDもありますが、たいていは任意の色に変色させながら光らせる用途に用います。スペクトルにはピークが3つあるだけなので、演色性が高いものではありません。ネオンテトラの水槽に使うと、とんでもない派手な色に魚が光ります。ただし水草は変な色になりました。育ちますけど。
LEDは(ある程度)流れる電流に応じて発光しますが、電球ほど制御が簡単ではありません。電球の場合は定格電圧をかければ勝手に定格電流が流れて安定します(自己制御性があります)が、LEDには自己制御性がない上に特性のばらつきがあるので、何とかして電流の量を個別に制御してやる必要があります。「砲弾型」などと呼ばれる一般的パッケージの場合、製品にもよりますがたいてい10-30mAくらいが定格電流(If)になります。これが流れるときの電圧が定格電圧(Vf)です。青色LED(とそれを元にした白色LED)のVfは3.6V程度のことが多いようです。なら最初からVfをかければよいかというとそうでもなく、個体差があって同じ電圧でも流れる電流にばらつきがあります。単純にスペックリストにあるVfをかけても電流の値が同じにならず、期待したような動作をしないことがあります。並列にすると特性のばらつきがよく分かります。意図したとおり光らせるには、定電流駆動になるように制御してやる必要があります。
もっとも単純な制御方式は、少し高めの電圧をかけて電流制限抵抗を入れる方法です。値の計算方法は、電源電圧からVfを引いて、それを駆動電流(Ifかそれ以下)で割るだけです。たとえば6VでVf3.6VのLEDを20mA駆動するには、(6-3.6)/0.02で120Ωとなります。抵抗による損失はありますが、あまりケチらない方がいいでしょう。制御が効きにくくなります。
定電流ダイオード(CRD)という部品もありますが、特性的にLEDに使うのは一杯一杯という感じで、15mA品などデータシートを見ると全然リニアな定電圧にはなっていません。また、ドロップアウト電圧も4.5Vくらいを見込む必要があります。3.6VのLEDを点灯させるなら9V以上の電源が必要です。複数並列にするとその数に応じて制御電流を増やすことができるのが取り柄でしょうか。降圧分は熱になるのでその点に注意。あと単純で安いこともメリットです。
さらに洗練されたものとして、最近はチップタイプ(米粒大)の定電流レギュレーターICも出てきました。たとえば秋月で扱っているNSI45020AT1G (20mAタイプ)などです。こちらは3Vくらいの電位差からほぼ定電流動作になります。Vf 3.6Vなら電源は6Vでぎりぎりか、ちょっと足りないかってところでしょう。
もっと明るい照明用には放熱パッケージ入りの高出力LEDが使われます。これを使って自作した照明装置の例が実体顕微鏡用ファイバー代替光源の作り方です。この例では3W級LEDを使っています。このクラスのLEDは利用例が多いので、専用スイッチング電源モジュールなど部品も手に入りやすく、いろいろなものが作れます。この例の場合は固定出力電源ですが、もちろん工夫次第で可変電源にもできます。
場合よってはVfより低い電源電圧でLEDを点灯させる必要があるかも知れません。その場合は昇圧回路を併用します。発振回路とコイルの組み合わせでも作れますし、昇圧レギュレーターも探せば簡単に手に入ります。まあ工夫してみて下さい(なんと投げやりな)。Nikon Hの修理メモでちょっと触れています。