このメモは、研究室の戸棚から出てきた日本光学工業の携帯顕微鏡H(以下Nikon H)のメンテナンスないしレストアに関する記録として記した。主要部分はミクロワールドサービスさんのページを参照した。ここには主に電装品関係のメモを。
Nikon Hの光学系やメカについてはここで改めて触れるようなことはない。さすがはNikon Fと同世代の日本光学工業の業務用製品である。しかし、電装品については、正直あまり褒められたものではない。
本体上面中央のねじ止めの蓋を開けると、単三乾電池2本を入れられる電池ボックスとなっている。電池を入れたまま放置すると、当然のことながらしばしば液漏れして電池ボックスを汚す。これはユーザーの問題であり、メーカーにできることはあまりない。研究室にあった個体にも液漏れの痕があった。蓋の端子にはサンドペーパーで削ったとおぼしき傷もあった。しかし、新しい電池を入れても動作しない。
電池ボックスにはバネで端子を電池に圧着させる機構があるのが普通だが、Nikon Hの場合はかなり凝った構造になっている。詳細はミクロワールドサービスさんのページを参照のこと。研究室の個体にも、修理跡と思われる下手な半田付けが見られた。ここに汚損が見られたので、まずはここを疑った。端子圧着用のバネ機構がやや渋くなっていたので、常法に則り鉛筆の芯の粉を入れて動作を繰り返し、軽く動くようにした。その上で半田付けされていたリード線を除去し、端子表面の酸化膜を削り落とした上で新しいリード線を丁寧に半田付けした。
これだけなら底蓋を外すだけですむが、これでもまだランプが点灯しなかったので、底面のメインプリズムを外してやや大がかりなメンテを行った。結果的に改造することになる。メインプリズムはたまたまそのタイミングで訪問してくれた理化学機器屋さんの無料顕微鏡クリーニングサービスにお願いして磨いてもらった。その上で、電装系総取り替えに近い改造を行った。
Nikon Hの照明は、単三乾電池2本で点灯させるニップル球(先端がレンズになって集光性のある豆電球)からの光をミラーで反射しコンデンサーを通す設計になっている。本体下部側面に電源スイッチがある。しかし、これは単なるオン・オフではない。内部電源と外部電源とを切り替えられるようになっている。外部電源がどのようなものであったのかはもはや分からないが、ストロボのシンクロターミナルによく似たコネクターがあり、ここから取り入れていたようだ。
その上、凝ったことに調光機構まで設けてある。抵抗線を巻いた樹脂円弧の上をつまみに直結したコンタクタが滑り、抵抗制御で明るさを変えるようになっている。写真は取り外した調光機構の部品。コイルの下に隠れたレバーの先が、本体下部の外部電源ターミナルの下から覗いていた。日本光学工業(現ニコン)ともあろうものがこのような設計をするとは。こんな構造では早晩接触不良を起こすに決まっている。せめて薄いリン青銅のコンタクタがコイル上面を滑るとかにすればよかったろうに、剛体のコンタクタが直角にあたっている。あるいは抵抗線側の樹脂に弾性を持たせていたのかも知れない。経年の長い摺動もののこと、もちろんまともに機能しないので、再生する気にもならず撤去。そのためにはねじの頭を隠している表面の革(布ベースの素材で本革ではない)をある程度剥がす必要があるが、さほど難しくない。合成ゴム系接着剤らしく、エタノールで軟化させれば容易。
内部のリード線の色はオリジナルは全部黒。迷光防止のつもりにしても、分かりにくいこと夥しい。テスターを駆使してどことどこがつながっているかを明らかにする。本体を逆さにしてスイッチを手前にすると、電池ボックスの奥側が+極。さすがにそこにつながるリード線は赤色に交換。電球ソケットにつながるリード線は電池ボックスのすぐ近くからボディの中に入っている。
スイッチは2回路で、これも摺動ものの宿命でダメになっていたので分解して電極を磨き直して再生。ボディフレームをグラウンドにしてしまえばマイナス側の回路が不要になり配線量は半減するのにそうしなかったのはなぜだろう。外部電源と関係があるのかも知れないが、やっぱり電装系の設計はあんまりよくなかったのかも知れない。ボディからスイッチを取り外すためには外装の革をかなりめくらなければならないが、エタノールと根気と時計用ピンセットで何とかなる。写真は見にくいが、電池ボックス側の端子に電池ボックスの両極からのリード線がつながり、中央の端子から出力。反対側の端子には外部電源ターミナルからのリード線がつながっていた。よく見ると端子の形状が変。通常であれば穴の空いたタブになっているところ、穴の部分で切られたような形になっている。これはもしかしたら手違いでスイッチが大きすぎてメインプリズムに干渉しそうになったのをごまかしたのかも知れない。
外部電源系は使いようがないので、化粧用にターミナルだけ残して配線は撤去。調光機構を撤去したスペースに昇圧型定電流レギュレーターを設置し、これによって3Vの電源で白色LEDを点灯させる。使用したのは秋月電子通商 K-01064「白色LED点灯キット チャージ・ポンプ方式」。付属するLEDから見てかなり古いタイプのようだ。付属文書はきわめて分かりにくい。ネット上の製作例などを参考に、20mA出力になるよう配線する。写真の左がスイッチからの入力、右がソケットへの出力。
ソケット側には手を付けず、豆電球を取り外して「豆電球をLEDに改造する方法」で改造したものに差し替える。
To be continued.