自動露出のこと

私自身はこの手のカメラを使っていなかったし多分この先も使わないのですが、知っておいた方がマニュアルでの操作にも役に立ったので簡単に。

自動露出(制御)のことを、Auto Exposure (AE)と呼びます。古くはEE (たぶんElectoric Eye)と呼んでいました。まずレンズ固定式のコンパクトカメラでEEによる自動露出が普及し、一眼レフにも波及しました。1980年代になると一眼レフでもAE (なぜEEからAEに名前を変えたかは不明、格好いいから?)が当たり前になっていました。フルメカニカルのニコンFM/FM2/NewFM2が1980年前後にフルマニュアルを謳っていたほか、同時期にはアサヒペンタックスのMX、オリンパスのOM-1がやはりフルマニュアルカメラで、それ以外はだいたいAEといっていいくらいでした。

自動露出の3つの方式

  1. 絞り優先オート(A)
  2. シャッタースピード優先オート(S)
  3. プログラムオート(P)

AEには大きく分けて3つの方式があります。(1)絞り優先オート(2)シャッタースピード優先オート(3)プログラムオートです。(1)絞り優先オートは手動で絞りリングを回して絞り値を設定して、それに基づきシャッタースピードをカメラが自動制御にするものです。伝統的に"A"で標記します。AutoのAでしょうかね。(2)シャッタースピード優先オートは反対に手動でシャッタースピードを設定して絞りを自動制御にするものです。昔から"S"で標記します。ShutterのSでしょうか。(3)プログラムオートではどちらもカメラに任せます。特に他のモードと区別して言う場合は"P"、これはProgramのPでしょう。これに自動露出ではない(4)マニュアル"M"を加えれば「ASPMの4モード」が揃います。

以下、ニコンのフィルムカメラに限った話です。他社のことは知りませんので書けません。どうぞ悪しからず。

露出計

いきなり寄り道のようですが、明るさを測定して適切な絞りとシャッタースピードを決めるのに必要な露出計の話です。ここが分かったつもりにならないとその先は分かりません。

入射光式と反射光式

露出計には、入射光式と反射光式とがあります。入射光式は、例えばプロカメラマンがモデルさんの顔の前で使っているようなものです。え、そんな場面見たことない?そりゃそうですよねえ。写真館で記念写真を撮ると、特に振袖とかライティングが難しいもの(難しいんですよ、質感・立体感をうまく出すのは)では写真屋さんが使うこともあります。

入射光式(外光式ともいう)では「その場の明るさ」を測るので、正確な露出の決定が可能です。後述の反射光式と違って、黒いものは黒く、白いものは白く写ります。本来はこれが当たり前。ただし、正確に測定するには被写体と同じ場所で測らなければならないのが弱点です。そのため、近寄れないもの、遠くのものは、入射光式では測定することが出来ません。経験と勘(またはデータと理論)で推定すれば良いのですが。

単体露出計には入射光式が多く、反射光式との兼用機もあります。実はスマホのアプリでもインカメラを照度センサー代わりにして入射光式露出計の真似事が出来たりします。

これに対し、反射光式は被写体が反射した光を測定します。一眼レフカメラが内蔵しているのはほとんど反射光式露出計で、撮影レンズを通過した光を測定するTTL (Through The Lens : レンズ透過(光))露出計です。

反射光式露出計は、被写体がある一定の反射率(18%)であることを仮定して測定します。しかし、明るさが同じでも被写体が黒いか白いかで反射光の量は全然違ってきます。そのため、被写体が白いときには「照明が明るいと誤解」し、逆に黒いときには「照明が暗いと誤解」します。そのため、被写体の色による露出計の指示値のずれを考慮して露出を決定してやる必要があります。大丈夫、普通の高校生でも経験と勘で何とかできます。

単体露出計にも、スポットメーターと呼ばれる特定の一点の明るさを測定するための入射光式露出計があります。使ったことはありませんが。あと、ニコンFの一番最初のフォトミック(露出計内蔵)ファインダーは外光式でしたが、被写体を向いた測光窓を持つものでした。レンジファインダー時代はセレン光電池(センサー)を被写体に向けるタイプが一般的だったようです。

TTL露出計

自動露出を実現するには、カメラに搭載されたTTL露出計を用い、実際に撮影する像の明るさの情報を得ます。1980年頃までは測光方式は素朴なもので、一眼レフカメラではTTL中央重点測光が一般的でした。また、当然ですが露出計にはフィルム感度を設定しておくことができ、測光値から適正露出を直接指示するようになっていました。1980年代半ば頃からマルチパターン測光などの分割測光や場面評価が行われるようになりました。

TTL開放測光

TTL露出計にはいろいろな構造のものがありましたが、ファインダー付近に組み込むことが一般的だったようです。自動絞り機構(被写界深度のページの自動絞りの項を参照)と組み合わせて、TTL開放測光が実現されました。ファインダー交換式のF3ではちょっと凝った仕組みを採用しており、レフレックスミラーにピンホールを多数設けて、メインミラー裏側のサブミラーでピンホールからの光をミラーボックス底面の露出計に送って測光していました。そのためどんな交換ファインダーを使っても露出計が使用可能でした。これに対し、それ以前のF/F2では交換式ファインダーに露出計を組み込んでいた(フォトミックファインダー)ので、露出計を持たないアイレベルファインダーやウエストレベルファインダー(ペンタプリズムを使わずファインダースクリーンの画像を直接または拡大して光軸と直角方向から見るもの)などのような特殊ファインダーを使うと露出が測れませんでした。

TTLダイレクト測光

この他にTTLダイレクト測光というのもあり、オリンパスのAE機OM-2で採用されたことで知られますが、これは露光中のフィルム面の反射光をボディ内露出計で測定しするものです。高速シャッターでは主にシャッター先幕の反射光を測ることになるので、先幕の反射率をフィルムに合わせてあるそうです。ボディ内露出計は、ミラーボックス底面に設置されフィルム面を向いた光センサーです。この方式ではリアルタイムの露出制御ができるので、ストロボの自動調光(発光量制御)をボディ内のTTL露出計で行うことが可能です。ニコンではFE2がスピードライト(ストロボ)制御用にダイレクト測光を採用しました。これはストロボ制御専用なので、先幕が走り終わってからストロボが発光し、それを測光して専用端子で発光停止タイミングをストロボに伝えます。測光対象は常にフィルム面なので、シャッター幕は普通です。

TTL瞬間絞り込み測光

あともう一つ、古いレンズとの互換性を確保するための過渡的なものだったようですが、瞬間絞り込み測光というのもありました。一眼レフカメラではシャッターボタンを押すとミラーが上がって光路をファインダーからフィルムに切り替えて、それと同時に自動絞り連動機構が作動して設定された絞り値まで絞り羽根が動き、次いでシャッター幕が走行します。このタイミングを変更して、シャッターボタンを押した直後、ミラーが動くより前に絞り羽根を動作させ(絞り込み)、瞬間的に絞り込み測光を行った上でミラーを上げてシャッターを動作させます。一連の動作を二分割するために、シャッターボタンを押してからシャッターが切れるまでのタイムラグ、シャッターラグが大きくなるのが欠点だとか。

(1)絞り優先オート

絞り優先オートは、手動で絞りリングを回して絞り値を設定し、その絞り設定値とTTL露出計での測光値からカメラが適切なシャッタースピードを算出し、電子的にシャッタースピードつまり後幕が走り出すまでの時間を制御して実現されます。このため絞り優先オートを使うためにはシャッターの制御機構は電子式である必要があります。中にはメカニカル制御(ざっくりゼンマイ時計のようなもの)と電子制御を併用して自称「いいとこ取り」をしたカメラもありました。FM2シリーズの最終形FM3Aのことで、AEもできてなおかつ電池なしでも全速度でシャッターが動作しました。FM2ユーザーとしてはそれにどれくらい意味があったかは良く分かりませんが、なかなか魅力的ではありました。

上ではレンズの絞り値をボディに伝えることについては敢えてさらっと書きましたが、実はメカニカル連動の時代はここも結構大変で、ニコンに関しては「カニの爪」と呼ばれるパーツと開放F値補正ダイヤルから始まり、「ガチャガチャ」と呼ばれる半自動設定機構の導入、レンズ取付時に連動が成立する「Ai方式」へと変遷してきました。これでも概要にすらなりません。1986年からは電子連動式(ニコンではCPU連動という)が導入され、以後の機体はそちらを使うようになります。

(2)シャッタースピード優先オート

シャッター優先オートを実現するのは結構大変で、絞りリングそのものをモーター駆動で回すというものすごい力技を使ったF2のEEコントロールユニットを経て、後述のAi-Sレンズからは自動絞り機構(被写界深度のページの自動絞りの項を参照)の絞り連動レバーを使って絞り値の制御を行うようになりました。自動絞りレンズではシャッターを切った瞬間に自動絞り連動レバーを介して絞り羽根が絞りリングで設定した絞り値まで動きます。連動レバーを少ししか動かさなければ絞り羽根は少ししか動かず、大きく動かせば絞り羽根も大きく動きます。つまり原理的には自動絞り連動レバーの動作量で絞りの動作を制御できます。もともとは開閉だけを制御すればよかった自動絞り連動レバーについて、その動作量と絞り値との関係を統一したのがメカニカル連動式レンズの最終形「Ai-Sレンズ」です。これによってシャッター優先オートが可能になりました。

しかし、絞りリングによる設定値が例えばF5.6なら、いくら自動絞り連動レバーが動いても絞り羽根はF5.6より小さくは閉じません。カメラが絞り値を自動制御するには、連動レバーの動きだけで開放から最小絞りまでの任意の絞り値を選択できるになっている必要があります。そのため、メカニカル連動のレンズでシャッタースピード優先オートを使うときは、絞りリングは事前に最小絞り位置まで回しておく必要がありました。これはプログラムオートでも同様です。

(3)プログラムオートは後回し

プログラムオートの話をするにはEV値(というのも変な言い方ですね、Exposure Valueですから「値」が重なってしまいますが慣用的に使われているのでここもそれで)に触れる必要があるので、後回し。まあ省いて適当に書いても大して違わないんですが、せっかくですから。

相反則

別に反則ではありません。絞り値とシャッタースピードとが相反するという法則です。ブンゼン・ロスコーの光化学の法則(Bunsen-Roscoe's law of photochemistry)から導かれるものです。内容はわりと直感的かつ単純で、同一の明るさのもとでは、レンズを絞れば遅いシャッタースピード(長い露光時間)が必要になり、シャッタースピードを速くすれば(短い露光時間)レンズの絞りを開く必要がある、という関係です。フィルムを感光させる(光化学反応を起こす)のに必要な光の量(光量子数)は、フィルムの感度によって決まっています。たくさんの光が当たるとより濃い像が形成されます。多すぎると真っ黒。逆に光が少ないと像は薄くなり、足りなすぎるとまともな像になりません。当たり前ですね。その中間の「適切な量の光」にするには、「弱い光を長時間当てる」「強い光を短時間当てる」のどちらでも構いません。もちろん「中くらいの強さの光を中くらいの時間当てる」でも構いません。問題は当たる光量子の個数だと考えれば、これらが同じ結果になるのがわかりやすいと思います。これが相反則。

相反則により、絞りを1段絞るのとシャッタースピードを1段速くするのとは等価になります。あるいは絞りとシャッタースピードとはトレードオフの関係とも言えます。同じ明るさであれば、絞りを絞るとシャッターは遅くなります。絞りを開くとシャッターは速くなります。なんか当たり前な内容ですね。

EV値とLV値

EV値とは、露出量を示す値です。Exposure Value。Valueと値とが被っているのは私のせいではありません。SI単位では照度ルクスlxがだいたい相当します。しかしlxそのままではちょっと実用にはしにくいので、写真用の実用的な単位としてEV値が定義されています。ストロボのガイドナンバーGN(露出の項の最後のあたりを参照)のようなものです。撮影現場ではGNほどには多用しませんが、カメラ内蔵のTTL露出計ではない入射光式露出計を使う場合にはEV値は多用するはずです。と聞きました。細かく言えば露出計が示すのは本来的にはLV (Light Value)で、本当にlxに相当するのはこちらですが、EVはLVとと比例するのでまずはEVから。

露出の基準として、EV0は「フィルム感度ISO100、絞りF1.0、シャッタースピード1秒」と決められています。SI単位で言えば2.5lx。いつ誰が決めたのかは知りません。絞りF1.0なんてレンズは見たこともありませんし、1秒というのもずいぶん長い露出時間です。でもまあ仮想的なものとして理屈を考えます。

ここで相反則の登場です。EV0は極端に暗い条件なのでちょっとイメージしにくいのですが、まずはここは動かさないで。あとフィルム感度もISO100固定で。EV0での適正露光は「F1.0、シャッタースピード1秒」ですが、相反則により「F1.4、2秒」でも適正であることが分かります。絞りを1段絞ってF1.4にしたためレンズを通る光の量は半分、その分シャッタースピードは1段遅くして2倍の2秒になります。半分の強さの光を2倍の時間当てることで、積算では同じ露光量になります。「F1.4、2秒」「F2、4秒」「F2.8、8秒」でも同じことですね。F3(ニコンのF3のことね)のシャッター制御範囲が8秒までなので、このくらいにしておきましょう。シャッターを開く時間をあまり延ばすと、肝心の相反則が崩れる「相反則不軌」という現象が起きてきますから。

では、もう少し明るくて、光の量が2倍あったら。適正露光は「F1.4、1秒」または「F1、1/2秒」相当になります。これがEV1です。EV1のさらに2倍あったら、適正露光はシャッタースピードを変えなければ絞りを1段絞って「F2、1秒」です。当然この露光量は相反則により「F1.4、1/2秒」「F1、1/4秒」でも得られます。これがEV2です。さらに2倍の光があった場合は「F2.8、1秒」(「F2、1/2秒」「F1.4、1/4秒」「F1、1/8秒」)となります。これがEV3です。

ずらずら並べましたが、相反則を踏まえれば何となく関係を掴めるかと思います。この関係は、「光量が2倍でEVが1増える」なので、すみませんが(なにがや)EVは照度の2を底とする対数という関係になります。かけ算を足し算にするのが対数で、常用対数は10倍で1増える関係なのでその底は10ですが、これは2倍で1増える対数なので対数の底は2になります。多分これは書かない方が伝わるやつですね。

いわゆるどピーカンの屋外はだいたいEV15くらいとされていますが、これはEV0つまり「絞りF1、シャッター1秒」から絞りとシャッタースピードを合わせて15段絞る・高速にする方向に動かすことで適正露光になるという明るさです。具体的には、「F2.8、1/4000秒」とか「F5.6、1/1000秒」あるいは「F16、1/125秒」です。流し撮りは出来ませんね。EV9ならそこからマイナス6段(あるいはEV0からプラス9段)で「F1.4、1/250秒」や「F4、1/30秒」です。このように、EVに応じて絞りとシャッタースピードとの組み合わせが可能な範囲が決まります。

LVとEVとでは、EVの方が派生的・実用的な値で、その場の明るさ、光の量そのものを示すのはLVです。EVはISO100のフィルムを使ったときのLVという関係で、定義から明らかですがEVはフィルム感度に依存します。だから本来露出計はLVを示しますが、使っているフィルムの感度を換算ダイヤルに設定することは簡単なので、直接EVを読み取れる露出計は針式メーターしかなかった昔からありました。ISO400のフィルムを使うと、同じ光の量(LV)でもEVは2段分、数字で言えば2だけ大きくなります。ISO100でのEV5がISO400のEV7に相当し、絞りとシャッタースピードはEVで決まります。そのため同じ光の量(LV5)でもISO100ではEV5で「F1.4、1/15秒」と手持ち撮影はほぼ無理なのに対し、ISO400ならEV7で「F1.4、1/60秒」と手持ちでも何とかなります。ISO1600ならLV5でもEV9で、「F2.8、1/60秒」が可能です。

(3)プログラムオートとEV

後回しにしたプログラムオートです。これは絞りとシャッタースピードの両方を自動制御するモードです。そのため、カメラはTTL露出計で測光して設定されたフィルム感度を参照して被写体画像に適したEVを算出し、それに応じた絞りとシャッターを設定します。最初はごく単純な線形プログラムでしたが、のちに暗い場面でもシャッタースピードを手持ち限界で粘るよう制御曲線をシフトさせるなど、より賢い制御をするようになりました。その他、末期のフィルムカメラで分割測光により場面検出を行うようになると、場面に応じて絞りとシャッターの組み合わせを変化させるという文字通りプログラム制御となっていきましたが、そんな芸達者なカメラについては話を聞いただけです。おおう、なんという竜頭蛇尾。