体に悪いとかで最近は使われることが少なくなってきたラクトフェノールですが、一応レシピのメモを。ラクトフェノール・トリパンブルーとかラクトフェノール・コットンブルーとか、適当な濃度の色素を使うと染色と封入がいっぺんにできて便利なので、ちょい見用にさんざん使いました。最近は代わりに純乳酸とか使うみたいですが、私は無染色のグリセリンマウントですむことも多いので、ラクトフェノールはたまにしか使わなくなりました。フェノールは有害なので管理とかもうるさいって言っちゃいけませんね、慎重を要しますし。
薬品名 | 比率(%) |
乳酸 | 25 |
フェノール | 25 |
グリセリン | 25 |
蒸留水 | 25 |
この処方はアーバスキュラー菌根に関する文献(Morton JB, Mycologia 78:787-794, 1986)で見たものです。Plant Microtechnique and Microscopy(※) p.115 にも載っていました。はっきり書いてはありませんでしたが、容積比だと思います。「1:1:1:1で総量100ml」という書き方でしたから。他にグリセリンを2倍にする処方もあるみたいです。論文の Materials and Methods を読んでもラクトフェノールの処方までは書いてないことが多く、もしかしたら業界によって流儀が違ったりするのかも知れません。
※:このリンクのスキーム(URN)は一般的なブラウザにはサポートされていないようです。この本の番号ISBN978-0-19-508956-1を示すものです。日本国内向けにはWebcat Plusのこの本のページでもリンクしておきましょうか。
なんでこんなものを調べたかと言えば、もちろん久しぶりに必要になったからです。より正確には、必要になったのはラクトフェノール・トリパンブルーなので、できたラクトフェノールに約0.3%のトリパンブルーを溶かしました。青黒い不透明な溶液になりますが、切片をマウントすると薄青い程度にしか見えず、邪魔にはなりません。正確には0.3%じゃないですね。ラクトフェノール50mlにつきトリパンブルー150mgという割合です。(w/v)って書けばいいですし書かなくても普通分かりますね。
フェノールは融点43℃だったかそのくらいなので、ビンごと湯煎にかけて融かして使いました。でも試薬ビンごとお湯につけるとラベルが剥がれたり水でコンタミしたりするのでビニール袋に入れてから。まあこんなこと言うまでもないですね。言うまでもないといえば、フェノールを扱うときはポリエチレンか何かの手袋をする必要があります。皮膚につくと火傷します。
人によってはこういう試薬を融かすのに電子レンジにかけることもあります。大抵の実験室にある電子レンジはそんなに大型ではないのでビンを寝かして入れる必要がありますが、熱膨張した空気を逃がすため蓋を緩める必要もあり、融かしすぎてあふれないようによっぽど気をつけないと。ビンごと適当な皿に入れるのは当然です。レンジに入れていいかどうかは、その試薬がきちんとマイクロ波を吸収する分子構造かどうかを見極められるくらい物理と化学に通じている人でないと判断できません。はて、フェノールは電子レンジにかけてよかったんでしたっけ?無難なところでは、時間がかかりますが50℃くらいに設定した送風乾燥機で暖めるってところでしょうか。臭いが気になるかも。
できたラクトフェノールを考えなしにスポイトビンに入れると、すぐにゴムニップルがダメになります。フェノールって怖いですね。シリコーンニップルに付け替える人もいますが、シリコーンは結構ガスを通すし、スポイトビンのキャップのプラスチック部やパッキンも傷むので、私はクラシックなガラス三点摺り合わせの色素ビンに入れています。「色素ビン」ではたまに通じないことがあるので説明すると、スポイトビンと違って中に入っているのはニップルを使わないピペットで、本体には差し込むだけになっており、それだけではピペットのてっぺんが開放されていますから全体をカバーする鐘型のふたがついています。当然倒したらこぼれます。外で使うときは少量マイクロチューブに取り分けて持って行き、適当なスポイト(ニップルを付けたパスツールピペットなど)で滴下します。
# 分野にもよるけど、最近の若い人は駒込ピペットくらいなら知っていてもギルソンとかエッペンドルフとかではない古典的なピペットなんて知らないかも?