顕微鏡の基本設定:一般的な照明


顕微鏡の各種設定、特に照明の調節など、本来なら基本中の基本で、顕微鏡を使うならできて当然です。が、顕微鏡術って案外ちゃんと教わらないものだったりもします。高価で高性能な研究用顕微鏡が、かわいそうにちゃんと調節してもらえていなかったり、掃除もろくにしてもらえていなかったり、ひどいときには雑な掃除をされてレンズに傷が入っていたり。まあ私もレンズやプリズムをかびさせたことがあるので偉そうなことは言えないのですが。


内蔵ケーラー照明の設定

「今さら聞けない」みたいな超基本的なことだけをさらっと。研究用として一般的なケーラー照明内蔵の顕微鏡の、一番基本的な最低限の準備。最新型があるようなところでは資料も揃っているでしょうから、私が使っているような古めのものについて。

顕微鏡の構造

対物レンズと接眼レンズ、プレパラートを乗せるステージについては、言うまでもないので省きます。鏡筒は大昔は筒でしたが、今は単体の部品ではありません。接眼レンズ周りのプリズムとか観察系と撮影系との切り替え装置とかがたくさん組み合わさっています。あと、現代の無限遠補正系の光学系では結像レンズという第三のレンズが入っていますがそれも略。照明の設定に必要な部分のみ。

照明の設定に必要なのはだいたいこの二つ。対物レンズや接眼レンズなどの観察光学系はまた別の話です。

上記の通り、照明光学系に絞りは二つあり、それぞれに役目が違います。一つは鏡基に組み込まれている「視野絞り」で、照明光が当たる範囲を制限します。無駄なところを照らして迷光(ノイズ)になるのを防ぎます。もう一つはコンデンサに組み込まれた「開口絞り」で、照明光の入射角範囲を制限します。どれくらいまで斜め(光軸外)の光で照明するかの範囲を決めます。対物レンズに刻印された開口数以上に開けても意味がありません。

最も基本的な照明の設定方法

コンデンサ高さを一番上に上げて(スライドグラスと干渉しないよう)、絞りを二つ(鏡基の視野絞り、コンデンサの開口絞り)とも開放にした状態からスタートします。テスト用に何か適当なプレパラート(何でもよい、グリセリンや乳酸のような揮発しにくいマウント液で封入したものなら充分)を用意します。対物ミクロメーターとかテスト用永久プレパラートをわざわざ出すのは面倒だし、万一傷をつけたら嫌なので、個人的にはやりません。

コンデンサの高さ

まず、コンデンサの高さの調整です。調整がいい加減でも一応は見えるはずなので、照明の電源を入れてそのまま、10倍程度の低めの倍率の対物レンズでテスト用プレパラートにピントを合わせておきます。次に、鏡基の視野絞りを最小付近まで絞ります。この状態で接眼レンズを覗きながら、一番上に上げてあったコンデンサを少しずつ下げます。小さく絞られた視野絞りの像ががくっきり見えるようになったら、それが正しいコンデンサの高さです。

視野絞り

鏡基にある視野絞りは、観察範囲外に当たった光が散乱してノイズになるのを防ぐためのものなので、なるべく絞って使うようにします。コンデンサの高さを調節したら、視野絞りの羽根がぎりぎり見えなくなる程度、視野のすぐ外側になるまで絞りを開くのが基本です。当然ですが対物レンズによって視野が異なるので、倍率を変えるたびに視野絞りも調整するのが望ましいですが、ちょっと面倒。撮影するときは調整すべきです。

開口絞り

最後に、コンデンサの開口絞りの調整です。接眼レンズを覗きながら開口絞りを開放から少しずつ絞って、視野が暗くなり始めたところ(概ね対物レンズの開口数に相当するはずです―開口数は対物レンズに倍率とともに刻印されています)からさらにもう少し絞ったところが基本位置です。目盛りがあればそれを参考に、暗くなり始めたところ(開口数)の7-8割くらいで。これは簡易な方法。倍率をとっかえひっかえするときなど。開口数はレンズによって違うので、倍率を変更するごとに調整しなければなりません。

対物レンズの「瞳」を見る方法もあります。接眼レンズを抜いて取り付け穴(スリーブ)から直接鏡筒を覗くと、明るく光る「瞳」が見えます。その直径の7-8割まで絞るのがビジュアルにわかりやすい方法。

ただし、その開口絞り値で全てオッケーというわけではありません。これはあくまで基本位置、絞り込んで焦点深度を深く取って観察する必要があることも多く、逆に開いてピントを微動させつつ観察することもあります。写真撮影の場合、フィルムを使っていた昔はベストセッティングを追い込んで一発撮りをするしかありませんでしたが、今は敢えて被写界深度を浅くした写真を重ねた深度合成が普通に行われるようになりました。なんにせよ観察目的に応じて一番よく見える位置が正しい位置で、たったひとつの汎用的な正解があるものではありません。


以上3点、コンデンサ高さ、視野絞り、開口絞り。たったこれだけ。もしそれまでのセッティングがいい加減だったら、調整の前後での見え方の違いにびっくりするでしょう。これでもまだまだいい加減ですが、やらないよりははるかにマシです。

コンデンサの開口絞りのことを焦点深度調節レバー/リングだと思っている人もいますが、そういう人はかえってその点だけは最適に調節しているかも知れません。コンデンサ高さなんてそうそう変えませんし、視野絞りが開きすぎでも見えなくなるわけではありませんから。

ちゃんと管理されていない顕微鏡では、コンデンサの芯出し(光軸合わせ)ができていないなんてこともざらにあります。その場合、上記のような方法でコンデンサの調節をしようとすると、偏った位置に視野絞り像が見えるので分かります。

幸い、コンデンサの芯出しは簡単です。コンデンサの取り付け部あたりをよく見ると、調節ねじ(XYの押しねじ+スプリングのこともあればスプリング1本にねじ2本のことも―後者はちょっと慣れが必要)があるはずなので、調節ねじをを少しずつ回して、視野絞り像が視野と同心円になるようにします。これで芯出しOK、続きの調整を。

本格的にでたらめなセッティングだった場合、ランプの芯出しができていなかったりします。ランプ切れ交換の後の調節を怠ったわけですね。拡散フィルターを抜いてランプハウスにある調節ノブを回して調節することが多いのですが、機種によって様々なので、マニュアルを見て下さい。とか書いていたのですが、昔のベストセラー機オリンパスBH2にはランプの芯出し機構がありませんでした。はは。必要ないように設計されているのでしょう。同世代のニコン機OPTIPHOTには自由度の高い芯出し機構があります。でも芯出し工具が失われていることもあり(というか見たことがない)工夫がいります。

おまけ?:OPTIPHOT/LABOPHOTのランプの芯出し

マニュアルに書いてありますが、引越の際に失伝したりしやすいものです。そこで、半分以上自分向けに。芯出し工具も失伝していますので、使わない方法を。

まず、10倍の対物レンズで適当なプレパラートにピントを合わせ、コンデンサーの心出しをします。出来たら、ランプハウスと鏡基の間にあるフィルターカセットのうち、拡散板Dを引き上げて光路から取り除きます。次に、コンデンサーにある開口絞りを最小まで絞ります。ケーラー照明では開口絞り面にランプのフィラメントが像を結びますから、絞り羽根をスクリーン代わりにしてそれを映すためです。

適当な光学ガラスを台座のフィールドレンズの上に斜めにかざし、そこに映してコンデンサーの開口絞りを下から覗きます。蒸着のND(Neutral Density)フィルターがいいらしいのですが、スライドグラスでも用が足ります。

ガラスに映ったコンデンサの開口絞りの上にランプのフィラメントが像を結ぶよう、ランプハウスの固定ねじを緩めてスリーブを抜き差ししてやります。拡散板Dを抜き忘れているとフィラメントは絶対に映りません。心出し工具を使わない場合は片手でガラスを持ってコンデンサを覗きながら調節するので、スリーブの動きが渋いと難儀します。やりにくいときはいったんランプハウスを外してスリーブ部を掃除して、それでも渋ければごく薄く(塗ったあと完全に拭き取るつもりで拭いて残るくらい)グリスを塗るといいでしょう。フィラメントの像が鮮明に見えるところでランプハウスの傾きを直して固定します。もちろん最初から鮮明に映っていれば触る必要なし。

鮮明になったフィラメントの像の中心が開口絞りの中心に一致するよう、ランプ位置を上下左右に調節します。ランプホルダー(ソケットスリーブ?)の上にある固定ねじ(ソケットスリーブクランプねじ)を緩めて長孔の範囲でホルダーを回転させることで、ランプの上下位置を調節します。左右位置についてはホルダーのケーブル出口の隣にある押し引きねじ(ランプ左右心出しねじ)で調節します。ランプがソケットにしっかり刺さっていなかったりすると調節しきれないかも知れません。その場合、ソケットスリーブクランプねじを外してランプをソケットにさし直します。ハロゲンランプなので高温注意、素手で触れて汚さないように。

これらの操作を必要に応じて行ってフィラメント像が所定の位置に映るようになったら、芯出しは完了です。拡散板Dを戻します。

ここまでやったら、照明の基本的なセッティングは一通りできたといっていいかも知れません。もちろん、追い込む余地はまだまだあるでしょう。

各部清掃

レンズの拭き方はしくじると大変なので、責任もとれないし自信もないので書きません。レンズペーパー(シルボン紙)と純エタノールを使い、キムワイプは決して使わないということだけ。別に使ってもいいのかも知れませんが。

表面鏡がうっすらと汚れていることもあります。埃はともかくかびは放置できません。古い表面鏡はものすごくデリケートなので、うっかり触ると傷が付きます。ちなみに、一般的な鏡はガラスの裏面に銀やアルミなどをメッキした裏面鏡で、反射メッキ面が保護されていますがガラス表面でも反射があるので精密光学には使えません。描画装置に使っているのは見たことがありますが。ガラスの裏ではなく表面にメッキをしたのが表面鏡なので、メッキの反射面が丸出しです。かびた場合、可能ならアルカリ性洗剤で洗って蒸溜水すすぎ・ブロアー仕上げ(拭かない)をしました。無理に外して光軸を狂わせて冷や汗をかきながら根性で直したことも。あんまりおすすめできません。

コンデンサや特に台座のレンズが埃だらけということもあるので、このへんは普通に掃除を。古い機械だと各部調節部が渋くなっていることもあります。スプレーオイルを別容器に受けて(直接噴射厳禁)ピンセットを烏口代わりにして注油してやるとよくなることもありますが、ばらして劣化したグリスを完全に拭き取ってから新しいグリスを塗り直すことも。硬くて揮発成分を含まない真空グリスが手元にあるのでよく使いますが、それで本当にいいのかどうかは知りません。10年使えていますからまあいいのかと。


顕微鏡術はとっても奥が深いものです。私は子供の頃に望遠鏡光学に接したことはありましたが、顕微鏡については自分が使う必要に迫られて基礎の基礎だけ触った程度です。本格的に追求したら、すごいことになるんでしょうね。