マツの種子の内部には普通はかびや細菌がいないので、表面だけ殺菌してやれば無菌化ができます。無菌化する必要がなくても、同様に消毒してやるとダンピングオフ(芽生えの集団立ち枯れ)の予防にもなるのでおすすめです。ここではまず無菌化まではしない種子消毒処理から。
殺菌剤としては、30%過酸化水素(市販試薬そのまま)で数分処理する人もいますし、アンチホルミンを使う人もいます。過酸化水素やアンチホルミン(次亜塩素酸ナトリウム水溶液)は要冷蔵で、管理に気をつける必要があります。私はさらし粉(高度さらし粉)を使います。この方法は学生時代に研究室の先輩だった現九州沖縄農業研究センター龍谷大学の岩堀英晶先生に教わりました。さらし粉は一番扱いやすいと思いますが、これも保管が悪いと変質する恐れがあります。いずれも要冷蔵です。
さらし粉による表面殺菌で必要なものを挙げます。100粒位(1グラム前後)を処理するスケールで。
さらし粉を使った具体的な種子殺菌処理は、だいたい以下のような感じです。
まず、種子を計量したらきちんと選別して掃除しておきます。これを精選といいます。事前に精選済みの種子ならここはパス。使える種子に余裕があるなら、最終的な必要種子数の倍くらいを処理するとよいでしょう。中身がスカな粃は、軽いし指でやや強くつまめば潰れるので分かります。傷のある種子は当然だめ、種子翼の残りはコンタミの元なので除去します。必要に応じて大きすぎるものや小さすぎるものも排除します。
さらし粉を10倍(w/w)の水(当然水道水で可)に加えて溶け残りが出る飽和水溶液とし、種子を加えて1時間おきます。種子は予備洗いなどせずいきなり投入してかまいません。学生時代に研究室の先輩師匠だった奈良教育大学の菊地淳一先生によると、室温が高ければもう少し短くてもいいそうです。30℃なら40分くらい。種子はさらし粉水溶液に浮く上に表面が水をはじくので、特に初めのうちは時々かき混ぜて、まんべんなくさらし粉水溶液に触れるようにする必要があります。
最近やっている手抜きっぽいが能率的な気がするやり方では、スターラーを使います。殺菌用ビーカーに水と攪拌子を入れて、回しながらさらし粉を投入、溶けてきたら種子も投入。緩めに回しながら適当につついて沈めます。
時間とともに全体に漂白されてきますので、もしも液に触れていない部分が残っていれば茶色が残って見当がつきます。アカマツの場合、最後には白ゴマのような色合いになります(さらし粉水溶液から出すと間もなく茶色に戻ります)。クロマツはそこまで変色しません。スターラーを使う場合はこのへんの心配が要りません。
時間になったら網杓子かステンレスメッシュで取りだして、水道水ですすいでおしまいです。
殺菌処理に使う容器がガラス製の場合は、のんびりしているとさらし粉に侵されるため、ガラスではなくプラスチックのビーカーをおすすめします。ポリプロピレン(PP)ならぎりぎりオートクレーブに耐えます。ガラスビーカーを使った場合も、使用直後に塩酸で洗えばまず大丈夫です。ステンレスの薬さじも材質によっては微妙に侵されますから、使ったあとはすぐに洗う必要があります。殺菌した種子をすくい取った網杓子も、使用後に全体をよく洗います。なお、薄い塩酸で洗うとさらし粉のかすを完全に落とせますが、当然のことながらこびりついていたさらし粉の量に応じて塩素が発生します。間違っても溶け残りのさらし粉に塩酸をかけたりしないように。塩素ガスが沸き出してあわてることになります。「プールの臭い」程度の微量なら問題ないでしょうが、気になるならドラフトへ。
実用面からは、おやつに食べたプリンのカップと、コンビニやフードコートのパフェについて来たスプーンでいいくらいです。パフェスプーンの方が薬さじより使い勝手がいいかも知れません。個人的にはパフェスプーンが一番使いやすいので、どこかのフードコートで出されたのを捨てずにそのまま使っているという。さらし粉はホームセンターでも手に入るし、塩酸もトイレの洗剤でたくさんだし、やろうと思えば高校の部活でもできますね。