アカマツ・クロマツについては、お手軽にすませるなら造園業者さんからも購入できますが、品質は生産者次第です。産年と県レベルの産地くらいは分かるでしょうが、その中で系統はいろいろです。遺伝的にそろったものは期待できません。利点としては大量に入手できることです。
ただし家庭菜園用の種子みたいにいつでもどこでも手に入るわけではありません。年度末が近づいて予算執行の締め切り(12月くらい)が迫った頃に契約依頼したらスムーズに手に入りましたが、購買担当者がどこで調達したのかまでは知りません。
購入種子は、業者によって品質がまちまちです。念のためバットに広げて点検した方がいいでしょう。湿っぽいものがあれば水分調整にもなります。あまり量が多くない場合はこの段階で精選してしまいます。方法は下記の自家採種を参照。
研究用に少量だけなら、日立市にある森林総研林木育種センターが「遺伝資源の配布」を行っています。産地や遺伝的背景などの情報がしっかりしたものが手に入ります。必要な場合は手続きなどはそちらをご覧下さい。ただし誰にでもくれるわけではなく、事前の打ち合わせが必要です。
手頃なサイズのマツを利用できるなら、Half-sib(片親共通)など素性の分かったものを自分で採ることもできます。ただしアカマツとクロマツとは雑種を作りますから、両種が一緒に植わっているような場所では要注意です。両種をきっちりした方法で識別するには、針葉の断面を観察して、樹脂道が表皮に接していればアカマツ、葉肉中にあればクロマツとします。雑種は中間の形質を示します(吉川ら、アカマツ,クロマツの雑種に関する研究、高知大演習林報告、1987)。なお、木があまり若いとこの方法では雑種がうまく区別できません。
現場での識別方法としては、成木はまあ見ればわかりますし、小さな個体でも冬芽ができている時季には芽が赤いのがアカマツ、白いのがクロマツ(黒くはない)というのが分かりやすいでしょう。あと、てのひらで針葉の先に触れて痛いのがクロマツ、痛くないのがアカマツという実にいい加減っぽいものもあります。こんな方法でもアカマツかクロマツかあるいは雑種かの見当がだいたい程度付いたりします。慣れると一見しただけで、いや見なくても気配で分かります(嘘をつけ)。
自家採種の場合、散布される種子を集めるのではなく、種子散布寸前の毬果を取ってそこから種を採ります。タイミングとしてはそろそろ早いものが開き始めたくらいを狙います。高枝切りばさみなどで地上から切り落として毬果を集めます。枝ごと切らなくてもうまくやれば毬果だけを落とすことができます。もちろん木登りでも高所作業車でも、どうぞご安全に。
集めた毬果は段ボール箱に入れます。木箱でもいいですがあまりないですよね。乾燥して毬果が開くと見かけの体積が増えますし、底の方が蒸れても困るので、段ボールに入れるのはせいぜい深さにして10cm程度までにしておきます。底の継ぎ目には種がこぼれないよう内側からガムテープか何かを貼るといいでしょう。段ボール箱を使うのは透湿性のためなので、苗木用などの防湿加工のものは向きません。プラスチックコンテナなど透湿性のない容器を使う場合は、入れる量を減らすなどして対応します。コンテナ内にざるやかごを入れてそこに入れれば上等。
毬果を入れた箱は、そのままふたをせずに風通しのいいところに置いて陰干しします。といっても本当に風が吹き抜けるところは当然避けます。多少松ヤニくさいのを気にしなければ、暖房の入った室内でも構いません。天気にもよりますが1週間もすると鱗片が開いて種子がこぼれ落ちてきます。扇風機を弱く当てると乾燥が早まります。開きにくい毬果は未熟だったり病虫害を受けていたりすることが多いので、きれいな毬果の多くが開いたらよしとします。箱ごと揺すると毬果から種子が落ちてくるので、毬果を別の箱に移し、箱の隅に集めて紙袋に採ります。箱の中に手を突っ込んで毬果をかき回す方法もあります。毬果が十分開いていれば、これを一回または数回繰り返せばだいたい落ちきるでしょう。なかなか落ちてこない種子には粃(しいな、充実していない種子)が多いので、あまりしつこくやるとかえって品質を損ねます。
採れたマツの種子は、揉んだり軽く搗いたりして、種子翼を取り除きます。取れた種子翼は軽いので、揺すれば表面に集まります。より分けるのが多少手間ですが、ふるいを使ってもいいでしょう。ざっと除いて繰り返し。種子翼その他の夾雑物はコンタミの元なので、なるべくきれいに除去します。数日陰干しして水分を調整したら乾燥剤とともにポリ袋に入れて冷蔵します。鳥害に遭わないよう、陰干しは室内で。(実用上)非休眠種子なので、取り出せばすぐに使えます。ちなみに種子の重さはアカマツで10mg, クロマツで15mgくらいですが、かなりばらつきがあるので、実験条件を整えるなら大きすぎるものや小さすぎるものは取り除くべきでしょう。
作業をしていると、妙に軽いものがあります。これが粃です。たいていは色が白いので分かるのですが、エタノール選(J-STAGEの文献へ)により比重で選り分けることができます。純エタノールに投入して、沈んだものだけを取ります。判定は入れた瞬間に付くので、浮いたものを薬さじなり小さな網杓子なりですくい取って捨てて、残ったものをメッシュの上にあけることで充実種子だけを得ることが出来ます。エタノールはもったいないから再利用。種子を水洗する必要はありません。そのままペーパータオルか何かの上に広げて乾かせば十分です。この方法による判定の精度は、上記文献によると外れることはまずないそうです。これは経験的にも言えます。
精選した種子は数日間室内で陰干しして水分を調整したら、チャック付きポリ袋に入れて冷蔵します。(実用上)非休眠種子なので、取り出せばすぐに使えます。3年くらい、ものによっては5年くらいまでなら生きていますが、だんだん発芽が揃わなくなってきます。ちなみに種子の重さはアカマツで10mg, クロマツで15mgくらいですが、かなりばらつきがあるので、実験条件を整えるなら大きすぎるものや小さすぎるものは取り除くべきでしょう。ついでに言うとエゾマツは100個で240mgでしたから、1個あたりたぶん2-3mgです。