土壌を殺菌するとき、本当はあまりいいやり方ではありませんが、手っ取り早くオートクレーブしてしまうことがあります。そのやり方について。
オートクレーブで起きる問題は、有機物を含んだ土壌の場合、蒸れて部分的に分解して変質することです。土壌の有機物層なんかだと顕著です。イヤな臭いがして、植物がうまく育ちません。大量の水で時間をかけて洗い流せば改善されますが、無菌を保ってこれを行うのは至難です。オートクレーブする代わりにガンマ線照射を行ってこの問題を回避した人もいるくらいです。かといって他にいい方法もなく、菌根菌を全く含まない土壌を作成するためにオートクレーブを使うことはよくあります。
土壌を大量に(数十リットル程度)オートクレーブにかけたい時、私はよく米袋を利用しています。滅菌土壌を無菌のままとかmonoxenicとかで使うのであれば、詰め替え作業に伴うコンタミの防止のため(可能なら)最終的な容器に入れて丸ごとオートクレーブすべきですが、開放系の鉢植えにする程度であれば、バルクで袋詰めにして滅菌してしまいます。
蛇足ながらmonoxenicはmono「単一」+xen-「他の」に由来し、菌根の文脈では宿主植物の「他に」「単一の」菌を加えること、つまり純粋培養菌株を接種することを指します。
米袋といってももちろん食料品店で白米を入れて販売しているプラスチックフィルム製のものではなく、農家が収穫した玄米を詰めるのに利用する紙製のものです。田んぼのある地域なら、ホームセンターの農業資材コーナーでいろいろなサイズのものを1枚数十円程度で入手できます。中古はもっと安く売っていますが内側に米ぬかが少々付いていることも。しかも、こんなに安いのにある程度の反復使用に耐えます。少なくとも私の使ったものは、数回オートクレーブにかけても糊が溶けたり破れたりしませんでした。
ただし、たっぷりと水分を含んだものをぱんぱんに詰めてオートクレーブすると、糊が溶けて張り裂けました。幸いにも滅菌かごを外に出して床に置いた瞬間だったのでオートクレーブの中を汚すことは免れました。米袋に詰めるのは、乾いた土壌からやや湿った程度まで、握りしめて水が滲むようなものはやめた方がいいです。
具体的には、よくある大きめの研究用オートクレーブ(釜の内径36cmくらい)なら30kg用の米袋を用い、網かごの中に入れてから土などを入れて、上を折りたたんで滅菌します。滅菌時間はオートクレーブの立ち上がりの早さにもよりますが、ガス式のクラシックなものではしっかり空気抜きをして1時間半くらいかけました。電熱式ののろまな機械では1時間でもいいかもしれません。合計時間はそっちの方がかかるでしょう(私はクラシックな方が好きです)。網かご一杯分を一気に滅菌できますが、バーミキュライトやピートモスならともかく土や砂で欲張りすぎるとむちゃくちゃ重くなるので、ほどほどにしましょう。重さにもよりますが、網かごいっぱいの米袋の上にさらに網かごを重ねてもあたったところが破れるようなことはありませんでした。まあ中身が軽かったからでしょうが。上記の通り水を多く含んだものは避けるべきです。
土壌や砂、あるいはきのこ用のおがくず・米ぬかなどの固体培地は、しっかり時間をかけてきちんと空気抜きをして滅菌しないと、芯の方が生煮えになります。処理のスループットを高めたくてもここは譲れないポイント。これから使う材料ではなく、たとえば植物防疫法に基づき大臣許可を得て輸入した土壌の研究終了後の不活性化処分なんかであっても、そのあとはゴミになるだけだからといって手を抜くことは許されません。万一漏洩したら、大臣に怒られてプレスリリース出す羽目になって下手をすると懲罰委員会にかけられて、ああなんておそろしい。あと、業務用の大型滅菌器(第1種圧力容器)だと、複数被滅菌物を扱う場合、詰め方によっては庫内温度不均一もあり得ます。
昔は「ビーカーたくさん」(滅菌自体は早いはずだが手間がかかるし容積効率が悪い)とか「網かごにオートクレーバブルバッグ」(所詮ゴミ袋、針金に引っかかるとすぐに破れるし反復使用はほぼ無理)とか「寸胴鍋」(取っ手が邪魔で案外小さなものしか使えないし底の方が水浸しになりがち)とかやってましたが、これまで使った中ではこの「網かごに紙の米袋」が一番便利でした。似たようなことをする方は、試す価値があるかも知れません。