教科書程度の基礎知識は前提としてますが、私の方が間違っていると困るので、一応共有情報の確認のためまとめます。なお、これは基本的に九州支所時代(1997-2006)のふっるい話です。が、センサーが小さくなって安くなったくらいで本質的には変わっていないはず…。実用上はえらい違いだ。
フィールドの現場で継続的に測定する土壌水分計には、体積含水率を測るものと、マトリックポテンシャルを測るものとがあります。前者にはすごくいろいろな種類がありますが、後者は事実上テンシオメーターだけです。植物にとっての水の利用可能度は絶対量ではなく「利用しやすさ」で決まるので(当たり前だ)、大量の水をがっちり吸着するような土壌では含水率が高くても水ストレスに陥ることがあり得ます。そのため、植物にとっての水の利用可能度は水ポテンシャルで議論すべきです。塩性土壌などを別にすると、マトリックポテンシャルがだいたいこれに相当します。
だったら「いつでもどこでもテンシオメーター」でいいじゃないかと思うかも知れませんが、あれはそんなに万能ではありません。第一に、測定可能レンジがそんなに広くありません。セラミックを通じて土壌と水理的に連結した水にかかる負圧を測定するという原理上、-100kPa(マイナス1気圧)以下は計れません。だってセンサープローブ内が真空になっちゃうもの。もちろん現実にはそれより前にセラミックのどこかに空気の通り孔ができて、「水抜け」を起こしてしまいます。そうなるとそれ以後は測定ができないので、-100kPaを下回る恐れがあるようなサイトでは使えません。また、圧力モノなので「隙がない」取扱が必要ですし、水を使う関係で氷点下になる環境では使えません。
一方、体積含水率を測定するセンサーにはいろいろな種類があります。代表的なものに「誘電率式」「中性子式」「電気伝導度式」がありますが、普通は「誘電率式」を使うでしょう。「中性子式」は放射性物質を使う関係で敷居が高いし、「電気伝導度式」は水以外のもの、例えばイオンの影響を受けすぎるのでせいぜい「お花の水やりセンサー」くらいにしか使えません。というわけで「テンシオメーター」と「誘電率式」の二つについて。
やっぱり連続観測には誘電率式でしょう。中でも定評ある英国 Delta-T Devices の Theta probe を使っています。といっても直接輸入ではなく、ウイジンさんから発売されているUIZ-SM-2Xというプレヒートロガーと制御リレーを組み合わせた製品を利用しています。結構なお値段しますが、さすがにいいです、このセンサー。頑丈だし、出力は安定しているし。なお、出力は体積含水率に比例した電圧なので、土壌の水ポテンシャルを求めるにはキャリブレーションが必要です。
ただし、センサー電源の電圧がある程度下がると変な値を出しはじめます。測定装置を組むときには電源に要注意。普通は特に電圧制御なしに9Vアルカリ乾電池で駆動できますが、アルカリ電池はその放電特性上消耗に伴いじわじわ電圧が低下します。そのためいつの間にか最低要求電圧を下回ってデータが変な値になっている恐れがあります。データ回収時に電池が電圧低下に陥っていた場合、どこからデータがおかしいのか分からず、泣く泣く全部のデータを捨てることに。ウイジンさんは3ヶ月を目安に電池交換を勧めてしています。
一般的な9Vの角形アルカリ電池1本で1時間1データならたぶん半年くらいは楽に保ちますが、念のためにデータ回収のたびに(頻度はロガーの記録容量によりますが1ヶ月ごとくらい?)センサー用電池の電圧を測定し、開放電圧が9.0V台前半(9.03Vとか)なら交換する、という方針で運用しました。大事な測定ならリチウム電池の使用も考慮すべきでしょう。2CR5タイプならきっとむちゃくちゃ長持ちするだろうと思います。なお、このリチウム電池のホルダーは普通には手に入りません(十分な知識なしにリチウム電池を使うと危ないからでしょう)が、プロ向け部材を扱うところで入手可能です。私はロガーの収納箱と一緒にタカチ電機から入手しました。
UIZ-SM-2Xでの失敗談を一つ。装置を組み上げ、設置するばかりという状態にしてから現場に持って行って、いざ設置しようとするとなんとセンサーが電池切れでした。ちゅどーん。
この装置(プレヒートロガーUIZ3635)では、ロガーのタイマーをセットせずに接続すると連続してリレーが作動して準リアルタイムの値を表示します。組み上げて、ロガーを省電力モードに設定してタイマーをかけたのでまもなくリアルタイム表示は止まると思っていたら、そうはならなかったのです。タイマーは関係ないかな?ともかく、回路をつないでおくとなぜか動き続けて消耗するという現象が発生しました(複数台で確認)。しかも、通常のインターバルで動作するのではなく数秒間隔で動作し続けます。リレーも数秒おきに動くので、単にプレヒートなしに連続動作する以上に電池が消耗します。これでは保ちません。
この現象への対策としては、いったんロガーを切り離して省電力モードに移行するのを確認してからつなぎ直すようにすれば大丈夫です。センサー用電池を取り外しておけばもっと間違いないですね。組み立て中にテストしたときはちゃんと省電力モードに移行したのですが、テストに使った使い古しの電池では移行しても、新品の本番用電池ではうまくいかない(ことがある?)ようです。確認が大事ということですね。
なお、「プレヒート」といっても本当に熱するわけではありません。理由は知りませんが、測定時のみセンサーに電源を供給することをこのように呼びます。電源が必要なセンサーを利用する場合はほとんど必須です。ACのラインを引っ張ってくる手もないことはありませんが、アースとか雷とかを考えるとできる限り避けたい方法です。
これも誘電率式水分計で、体積含水率に応じた電圧を出力します。
残念ながらスキルが足りなくてこの機械はまだ使いこなせていません。低価格を活かしてマルチチャンネルを組もうとしたんですけど…。問題はおそらく設計者の意図したのと異なる使い方をしようとするユーザーの方にあって、製品ではありません。だって使いこなしてる人いっぱいいるし。θ プローブをメイン、ECH2O プローブをサブという使い方も見かけます。「ハイ・ロー・ミックス」ってとこでしょうか。
いじくって引っかかった点だけ挙げておきます。センサーは電源電圧にきわめて敏感です。マルチチャンネルロガーを使っているなら、1チャンネルは電源モニターに充ててもいいくらい。センサーの仕様としては、電源電圧は2.5-5.0Vの範囲の一定値で、出力は電源電圧の10-40%の範囲だそうです。測定値は絶対電圧ではなく電源に対する比率として出てきます。そのため電源電圧変動が測定結果に直接影響しますので、安定化電源回路は不可欠です。センサーの消費電流は10mA。78L05とかで作れそうですね。ON/OFF制御機能のあるLM3490あたりを使えばプレヒート制御リレー(後述)が省略できそうです。ロガーのプレヒート接点で直接制御可能かな?温度変化に対する出力電圧の安定性は?次に作るときは検討してみましょう。
なお、ウイジンさんのにはずっと上等なスイッチング電源モジュール、コーセルのZUS 1R5が採用されていました。メーカーサイトでデータシートを見ると、なんかこれ鉄壁の安定性っていうか、0℃と25℃とで出力電圧が0.03Vしか変動しないらしい…なるほどこれならモニターの必要もなさそうな。
あと、コネクター。せっかくステレオミニプラグタイプのコネクターが付いているからと活かそうとしたのはたぶん間違いでした。ある程度の期間にわたって測定するなら、ちょん切って直接配線すべきです。せめてケース内に引き込んで端子台に固定。なお、ケーブル内の線は白が電源、赤が出力、シールドがグラウンドです。また、本体回路部がラバーモールドなので、後述する動物害を受けるおそれがあります。っていうか実際に掘り出されて囓られました。ケーブルだけでなく本体にも何らかの防御が必要です。温度や塩分濃度にも敏感だそうですが、私はこれが問題になるレベルまで達していません。
写真は被害個体のラバーモールドを剥がした基板の全裸写真。実装部品が少ないため故障には至りませんでしたが、ラバーモールドを貫通して基板にくっきりと歯形がついているのが左上の方に見えます。
現在マルチチャンネルのリベンジ中です。クアッドで敗退したので、一歩下がってデュアルチャンネルから。ここに書いたようなポイントを改良し、ティアンドデイの2ちゃんねる、じゃない2チャンネル電圧ロガーVR-71と拡張ユニットVR-00P1を組み合わせてプレヒート制御をおこないます。さて、結果はどうなることか。
途中経過的情報を。この機械では拡張ユニットのプレヒート接点を通して直接コーセルのDC-DCコンバーターに電源を供給しています。電池はアルカリ角形9Vタイプ。プレヒート時間は最短が1秒なので1秒に設定。テストのため構内で少々運用したところ、案外電池の消耗が激しいことが分かりました。2チャンネル8000データをぶっ続けで(5秒インターバル)測定すると、電池の開放電圧が8Vを切りました。まだ余裕はありますが、この構成ではメモリーいっぱいの測定を1回やるごとに電池を交換すべきでしょう。
一応上記の「リベンジ」では数字は取れていました…あとはそれがまともかどうか。動物対策としてはケーブルを含め全部埋めました。というか、共同研究者に埋めてもらいました。先方のサイトだったもので。タカチ電機のねじ止め式の防水ケースに入れて春の3ヶ月、機械は土の中で元気に動いていました。
欠点もありますが、ずばり土壌中の水ポテンシャルが圧力として直読できます。ちなみに使用したのはやはりウイジンのUIZ-SMTです。この機械はとてもタフで安定していて、しかも構造が保守的というか基本に忠実なので理解しやすく、初心者にはありがたいものでした。塩ビ管と手動真空ポンプでキャリブレーションをおこなうのも簡単です。2本の1.8m透明塩ビ管をU字になるようにつないで半分くらい水を入れ、一端は大気開放、他端に分岐ジョイントをつなぎます。次いでジョイントの一方をテンシオメーターの給水口に、他方を真空ポンプにつなぎます。すこすこと排気してやると内部の真空度に応じて2本のパイプに水位差が現れるので、水位とテンシオメーターの出力電圧を測定していきます。これで-18kPa近くまでの領域についてキャリブレートできます。
テンシオメーターには原理的にある程度以上乾燥すると水切れを起こして以後の測定がストップしてしまうという欠点があります。ただし、経験上は雲仙普賢岳の火砕流災害跡の荒れ地でさえも、水切れを起こしたのは真夏に1回のみ。日本の森林ではほとんど起こらないと言う人もいます。そのほかの問題として、センサーとエアプールを地上に設置する形態では、特に日なたでは日中温度が上昇することによって媒体特に空気が熱膨張して値がおかしくなることがあります。ケルンを積んで遮蔽してやったらまともっぽくなりましたが、結局日の出前のデータだけを採用したことも。完全埋設型ならこういう問題はありません。
電源が必要なセンサーのプレヒート制御をおこなうためには、当然ロガーに連動した自動スイッチが必要です。上記ウイジンの装置には、日置電気のロガーをカスタマイズしたプレヒートロガーと、そのプレヒート信号で実際にセンサー電源をON/OFFする制御リレーとが使われています。
私が購入した製品に使われていたのはリードリレーですが、摺動部や軸受けがないとはいえメカニカルな部品なのでそれなりに壊れます。テストでは正常に動作しても温度が上がる(下がる)とデータが0Vになる、といった半端な壊れ方をすることもあります。動作不良を起こしたリレーは当然交換しないといけません。そのためにはハンダ付けがそこそこできる必要があります。これは自作や改造品の機器を使って自動計測をする上では必要なスキルのうちでしょう。野外でテスターとガス式ハンダごてを駆使してトラブルシュート・修復作業を行うというのも珍しくありません。
上記のマイクロリードリレー(オムロンLAB1)は廃品番になっている…と思っていたのは勘違いで、これは今でも標準在庫品です。誘電率式の9V電源には12V品か、ぎりぎりで5V品が使えるはずです。テンシオメーターの18V電源は12V品が一応使えます。私は補修用に黒いプラスチックのもっとスクエアな形状のもの(オムロンG5V-1)を使ってみています。こちらはリードリレーではありません。18V電源でも定格に余裕のある24V品もあります。
この際ですからリレーの制御コイルで発生する逆起電圧を逃がすフライホイールダイオードも付けた方がいいですね。リレーが別製品ですし。小型のショットキーバリアダイオードを入れます。ここでは1S4を使っています。こういったものは秋葉原なら入手は容易、たしか千石あたりで買ったかな。各社の通販でも入手できるでしょう。っていつの間にかオムロンにオンラインショップができてリレー1個から買えるようになってるし。
# ここでいう秋葉原はもちろん昭和時代というか戦後から続くパーツ屋街の方で、パソコンとかオタクとかは関係ありません―秋葉原に行くようになってもう四半世紀以上、いろいろ変わりもするわなぁ。ゆく河の流れは絶えずして…。
リレーの各端子に配線したところ。基本的に元の配線に準じますが、端子配置はリレーの製品によって異なるので注意して下さい。メーカーサイトでデータシートを入手できます。ダイオードの入れ方はロガーのマニュアルに書いてあります。元々省略されていたってことはなくても害はないんでしょうが、何となく落ち着かないし、コイル特性が違うと考えられますから。
この程度ならわざわざプリント基板を起こすどころかユニバーサル基板を使う必要もないので、ちょこちょこハンダ付けしてしまいます。写真では一部にしか入っていませんが、熱収縮チューブなどできちんと絶縁して下さい。ビニールテープは使われている粘着剤にもよりますが劣化が早いのでおすすめしません。あれは屋内の動かさないものに限って使うべきでしょう。
フィールドで測定したり、培養室の環境管理に使ったり。ボタン電池の親分みたいな形状の豆自記温度計なんてものもあります。それらについては他で書いた文章があるので、少し手を加えたものを紹介します。
ウサギさん。何と言ってもウサギさん。ウゥ~サァ~ギィ~~‥‥。
呪っている場合じゃなかった。ともかく九州における地上設置のデータロガーに対する最大の脅威はノウサギでした。ウサギがいる地域ならどこでもそうでしょう。
ウサギがどうしてロガーの敵かというと、奴らはケーブルが大好きだからなのです。きっと DNA に書かれているのでしょう、ケーブルを見ると囓らずにはいられないようです。知り合いには自動灌水装置のホースをずたずたにされてしまった人もいます。被害に悩んで野生動物の専門家に相談して教えてもらいましたが、センサーとロガーを結ぶケーブル、特に鉛筆くらいの太さのものは、連中の「囓り心」をとっても刺激するものだそうです。
ウサギにぶちぶちにされたθプローブのケーブルです。ケーブルは余分を束ねてロガーと一緒にビニール袋に入れてありました。センサー自体は後述の熱帯のアリ被害を受けたものを修理したものです。
二重のスパイラルチューブの上からかじられてくっきりと歯形が付いています。この太さではまだ不足でした。これはECH2O プローブのものです。
スパイラルチューブの中のケーブルにも傷が付いていたので、外側の被覆を剥がしてみました。シールド線が半分くらい切れて、電源線も芯線が露出しています。ちぎれていなくてもこれじゃ測定できませんね。ウサギ恐るべし。
もっとひどくやられたケーブル。これも二重スパイラルチューブでした。かじってなんぼの商売ってか~。
上の写真に写っている外側のチューブを剥がした状態。当然中身もダメージを受けています。
しかし、ウサギには対抗可能です。要は奴らの囓り心に訴えないような形にするか、奴らの歯に耐えるようにするか。苦節6年、耐ウサギ性を追求して開発した(大げさな(^^;) ADR 土壌水分計(のケーシング)「1番機重装甲型」の製作記録を別項に簡単にまとめてみました。整備に手間がかかったり稼働率が低かったりはしないつもりです。
ケーブルの保護に関しては、スパイラルチューブを三重にすればかなりマシになります。上の写真にあるように二重スパイラルチューブではぶちぶちにやられてしまいましたが、この上からさらに太い16mmのチューブをかけたところ、設置期間は短かったのですが、その間には被害が出ませんでした。ただし三重ともなるとかけるのがちょっと手間です。
ウサギに次ぐ大敵は、イノシシです。一度など装置(2番機軽装甲型の原型機)を電池ごと噛み砕かれたことがあります。よほど頑丈なケースに収めないと対抗できません。「1番機重装甲型」はこれまでイノシシと遭遇したことがないので、対抗できるかどうかはまだ分かりません。イノシシは湿っぽくて腐植がたまっている場所をミミズ目当てに掘り返すので、そういうところに設置するとセンサーを掘り起こされるかも知れません。さいわいイノシシの挑戦を受ける頻度はウサギほど高くありません。
「2番機軽装甲型」の製作記録については、別項にまとめました。こちらはずっと製作が容易ですが、風雨に耐えるようにのみ考えて作ったもので、ウサギの前には若干心許ないものがあります。てゆーか本気で囓られたらひとたまりもないし。ウサギ・イノシシ等の心配が要らないところ専用です。
第三の敵は、カラスです。上空から見えるところに設置すると、特に直射日光から遮蔽するためにアルミホイルを使った場合は、よくカラスにいたずらされます。あまり力はありませんが、しつこく攻撃してきます。しかしカラスにはキュウリネットで効果的に対抗できます。この手法は土壌の専門家に教えていただきました。センサーロガーの周囲に竿を立ててキュウリネットを張っておけば、上があいていてもカラスは寄りつきません。ただしこの対策は設置が面倒なのと風の影響を受けやすいのとが多少問題です。
ちなみに、かつて訪れたボルネオ島にはまた別の敵がいました。サルやイノシシも強敵ですが、なんと言っても最悪最強の敵は、ジャングルの王者「ありんこ」です。いやほんとなんですってば。ボルネオ島のありんこ(アリとシロアリの両方)は、それはそれは恐ろしい生き物なのですよ。ゴムやシリコーン樹脂くらい簡単に食い破り、ビニール被覆の電線も中身の銅線まで食いちぎります。硬質塩化ビニールの水道管は大丈夫ですが、ヘアライン仕上げだったステンレス部品が梨地になっていたのを見たときにはぞっとしました。おまけにけんかっ早いし毒はあるし、ハチの親戚だけあって種類によっては刺されると腫れ上がったりします。罠にかかったネズミがアリに食い殺されていたり、アリの群れがでかいタランチュラを襲っていたり。ある朝宿舎を出がけにうっかり気づかずヤモリをドアに挟んでつぶしてしまったのですが、帰ってきて発見したときにはアリに食われてすっかり白骨化していました。
あと植物でおっかないのはラタンですね。家具に使う籐。鋭い棘の並んだ強靱な細い蔓が頭の上からぶら下がっています。これに引っかかるのはのこぎりの刃に引っかかるも同然。引っかかったままうっかり動くとえらいことになるので、慎重に下がって蔓の先をつまんでそっと外していきます。複数の蔓にいっぺんにかかると大変です。
そんなジャングルでも、地元の人はTシャツにゴム草履で平気で歩いていますけどね、50cmもあるような山刀(パラン)ぶら下げて。あれは便利そうですが、日本では法律に引っかかって使えません。残念。
と、話はそれましたが、恐怖写真を何枚かお目にかけましょう。ありんこにやられた ADR 水分計の無惨な姿です。修理して使ってますけど。
本来ここにはゴムのカバーがかかっており、ケーブルの根元にも発泡ゴムのような素材が充填されていました。ゴムカバーは原形をとどめないほど破損し、充填材は半分以上失われていました。ケーブルの外部被覆も食い破られています。
ケーブルの外部被覆だけではなく内部被覆まで食い破られ、一部では銅線すら食いちぎられています。さすがにここまでやられると機能停止に追い込まれます。幸いプローブの本体は破損しておらず、ケーブルの修復だけで再生可能でした。たぶん。
食い破られたゴムカバーの残骸と、プローブおよびケーブルの全体です。赤いのは固定用のガムテープの残りで、ケーブルの一部には白いスパイラルチューブがかかっています。
なお、日本のありんこも全く脅威にならないとは言い切れません。熊本市内立田山にある森林総研九州支所実験林内に埋設しておいたECH2O プローブには奇妙な傷がたくさんついていましたが、どうやらありんこにやられたみたいです。幸い致命傷にはならず、ウサギ害の陰に隠れた形になっていました。下に示すのはその写真です。
埋設していた ECH2O プローブのラバーモールドについた奇妙な傷。非常に細かい傷がたくさんついており、明らかにウサギなどによるものとは異なります。こんなことをやりそうなのは、ありんこってところでしょう。立田山の中腹にある公務員住宅は毎年梅雨時になると何度か大量の羽アリに襲われていましたし、ボルネオほどじゃないにせよありんこはいっぱいいます。ちなみに、熊本の夏はボルネオのジャングルより暑いです。夏に熊本からボルネオに出張して「避暑に来た」と言えるくらい。
これらのセンサーロガーの導入と運用には、森林総合研究所九州支所土壌研究室の小林政広さん(2020年時点では森林総合研究所立地環境研究領域土壌特性研究室長)と、九州支所鳥獣研究室の小泉透室長(2020年時点では多摩森林科学園教育的資源研究グループ)、および各研究室の皆様のご指導・ご助言が欠かせませんでした。ここに感謝の意を表します。