その他菌学関連のこと

書籍紹介

菌学関連及びその周辺の、主に最近の書籍で、読んで「これはいい」とか「学生時代にこんな本があったらなぁ」とか思ったものを紹介します。趣味に偏っていたり重要なものを見落としていたり書くのを後回しにしたまま忘れたりしていると思います。ここに挙げていないもので面白いものがありましたら教えて下さい。

菌類のふしぎ
国立科学博物館 編 東海大学出版会 2008
ISBN978-4-486-01793-6 定価 2,80円+税
世紀の変わり目を挟んだ20年ほどは、分子系統解析の台頭により分類学が随所でひっくり返るほど変革される時代でした。菌類の分類学もご多分に漏れず昭和時代とはだいぶ違うものになり、さらにまだ動きつつあります。その新しい菌類の分類について、旧体系との対応を踏まえて全体像を把握するのには、大変役に立つ本です。分類以外の分野の教科書には旧体系がまだまだ残るでしょうが、それを新体系に結びつける役にも立ちます。とりあえず、菌類に関わる分野に興味を持った人は全員読んでおきましょう(「もやしもん」の次でもいいですけれど)。生理と遺伝についてはあまり載っていませんが、生態や利用といったトピックについても扱われています。
昆虫と菌類の関係
F. E. Vega ら著、梶村恒 ら訳 共立出版 2007
ISBN978-4-320-05645-9 C3045 定価 5,300円+税
やはりこれも「微生物をめぐる生物間相互作用に関する小集会」に集う面々が中心となって翻訳されたと言っていいでしょう。こういうのが日本語で読めるんだから今時の学生さんは幸せです。
Mycorrhizas: Anatomy and Cell Biology
Peterson, R. L., Massicotte, H. B., and Melville, L. H., CABI Publishing, 2004
ISBN 0-85199-901-8 (佐野書店で\9,070でした)
菌根の形態についてきちんと整理された貴重な本です。200ページ足らずのボリュームに美麗な写真や図版が271点も詰め込まれています。
菌類の森
佐橋憲生 著 東海大学出版会 2004
ISBN4-486-01638-6 定価 3,150円(税込)
森林における菌類の生態を中心にした本です。「森の日陰者」菌類に「もっと光を当ててくれ〜」とのこと。
土壌微生物生態学
堀越孝雄・二井一禎 編著 朝倉書店 2003
ISBN4-254-43085-X C3061 定価 4,800円+税
「森林微生物生態学」に続き「微生物をめぐる生物間相互作用に関する小集会」メンバーが中心となって作られた、この分野を幅広く扱った日本で初めての(だと思う)教科書です。
マツ枯れは森の感染症 森林微生物相互関係論ノート
二井一禎 著 文一総合出版 2003
ISBN4-8299-2183-8 C0045 定価 2,500円+税
いわゆる「松くい虫」について、関連する生物が織りなす相互作用という視点を中心に幅広く取り扱った本です。
森林微生物生態学
二井一禎・肘井直樹 編著 朝倉書店 2000
ISBN4-254-47031-2 C-3061 定価 6,500円+税
「微生物をめぐる生物間相互作用に関する小集会」メンバーが中心となって作られた、この分野を幅広く扱った日本で初めての教科書です。日本菌学会報42巻1号に書評が掲載されています。
Plant Microtechnique and Microscopy
Ruzin, S., Oxford University Press, 1999
ISBN 978-0-19-508956-1 (アマゾンで調べたら\8,500ほどでした)
固定法から包埋・薄切・染色法、実践的なテクニックから光学の基礎まで幅広く載っています。光学顕微鏡を本気で使う人なら買って損はないと思います。
ブナ林をはぐくむ菌類
金子繁・佐橋憲生 編 文一総合出版 1998
ISBN4-8299-2129-3 定価 1,800円+税
著者による説明(MLより)
生物学を学ぶ人のための 統計のはなし 〜きみにも出せる有意差〜
粕谷英一 著 文一総合出版 1998
ISBN4-8299-2123-4 定価 2,400円+税
感想その他
新版 顕微鏡観察シリーズ1 顕微鏡観察の基本
井上勤 監修 地人書館 1998 ISBN4-8052-0598-9 定価 3,000円+税
まさに「基本」、特別な訓練を受けずに顕微鏡を使う(これは本来おかしなことですが)人は全員(こういった本を)読むべきだと思います。1998年の本なので内容は多少古くなっています(デジカメのデの字もないなど)が、この本に載っている程度のことは一通り押さえた上で今風のことをやるべきでしょう。なお、この本に触れられていない重要な点に「無限遠補正光学系」の一般化があります。現在の研究用顕微鏡はたぶんみんなこれに変わりました。
Working with Mycorrhizas in Forestry and Agriculture
Brundrett, M., Bougher, N, Dell, B., Grove, T., and Malajczuk, N, AICAR (CSIRO), 1996
ISBN1-86320-181-5 (CSIRO直販で送料込み1万円くらい)
ちょっと古くなりつつありますが、いろいろな菌根の実験法や利用法についてふんだんにカラー図版を用いて解説した優れた指導書です。

関連シンポジウム情報など

更新してませんが、消すこともないと思うのでそのまま。

菌類研究集会「ハラタケ目の分類について考える」

神奈川県立生命の星・地球博物館にて2001年3月17日に開催されたセミナーです。コーディネーターの出川洋介氏(同博物館)から情報をいただきました。

土壌動物学会若手の会主催・土壌動物学会第23回大会サテライトシンポジウム
「菌を食う・菌に食われる」
〜菌と土壌動物の複雑で多様な関係:その生態から応用まで〜

2000年5月13日に小田原で開催されたシンポジウムの紹介ページです。シンポジウム司会者の一人、東北農試・畑地利用部の島野智之さんから情報を提供していただきました。シンポジウム自体は終了しましたが、講演要旨も載っていますし、せっかくですから保存しておくことにしました。

追悼

2001年4月22日、JICA 専門家としてパプアニューギニアに派遣されていた笠井一浩さんが、首都ポートモレスビー市内で交通事故に遭い、亡くなられました。2001年1月から翌年5月までの予定で、パプアニューギニアのレイにある森林研究所に技術協力のために派遣されていました。享年35歳でした。

私が笠井さんに初めてお会いしたのは学生時代のことで、広島大学の堀越先生の下でマツカサの分解過程に関わる菌類の研究をされていました。その後筑波大学の任期付き研究員、神奈川県立生命の星・地球博物館の外来研究員などを経て、海外に活動の場を移したばかりでした(記憶で書いているので正確でない箇所があるかも知れません)。謹んでご冥福をお祈りいたします。