実体顕微鏡用簡易透過光源の作り方

かつてあるポスドク君が「実体顕微鏡に透過光源がついていたら仕事がしやすいのに」というので、同室のよしみで後付けLED透過光源を作ってあげたことがあります。例によって秋葉原で入手したパーツ、一部はありものの組み合わせで。すごく楽になったと感謝してくれました。その後ポスドク君が去って(今は大学の先生になっています)しばらくお蔵入りしていましたが、隣の部屋にいたあるすごい研究者が「電源のないところで使える透過光源があれば便利」と言っていたので、電池駆動化してみました。ただし、電池の特性を考えるとひどく無茶な使い方なので、電池の寿命はまだよく分かりません。完成する前に転勤してしまったので自慢できなくて残念。

ファイバー代替照明と同じく、純正透過光源と比べるといくらか制限があります。色再現性がやや劣るという点と、明るさの制御ができないという点です。シンチレーションタイプの白色LEDを使うため、ハロゲンランプほどきれいな連続スペクトルにはならないのは仕方ありません。

メリットもあります。薄いのです。落射照明専用の実体顕微鏡にも追加できます。大抵ステージは裏表白黒の円盤がはめ込まれていますが、これを取り外してアクリル板か何か適当なものをはめ込み、その下の数ミリのスペースに押し込むことができます。なんならステージにプラスチックシャーレの蓋を置いてその下に入れてもいいでしょう。

このメリットは実用上も大きくて、机とほぼ同じ高さのフラットな実体顕微鏡ベースに追加できますから、「ハンドレストの羽根」みたいな大袈裟なものがまったく不要になります。または肩が凝らない。椅子の上げ下げが不要。要するにエルゴノミクス的によいのです。

必要なパーツ

AC電源で使うなら、たったこれだけ。もちろんリード線は要ります。

白色LEDユニット秋月I-03946\250
2.1mm標準DCジャック 中継用秋月C-06343\80
スイッチングACアダプター 12V 1A秋月M-01804\650
拡散板何でもあり\時価

電池駆動するなら、電源として以下のものを。

2.1mm標準DCプラグ秋月C-02108\60
電池ボックス 1/2AA 1本用秋月P-03089\100
単5型12Vアルカリ電池秋月B-02351\50

特性上の問題

このLEDユニットは、表面実装LEDを基板の表に、電流制御回路を裏に実装したパーツで、厚さは5mmです。定格電圧が12V、電流は60mAです。ACアダプターならそのままつなげばそれで終わり。スイッチは入れたければ入れてもいいですが、プラグの抜き差しで充分だと思います。小学生でも作れるでしょう。半田ごてさえ使えれば。

しかし、電池駆動化しようとするとやっかいな特性です。まずどうやって12Vを供給するか。めんどくさい二次電池は考えないことにして、ポピュラーな一次電池で構成すると、いわゆる乾電池は単電池の定格電圧が1.5Vなので8本組にする必要があります。これはちょっとしんどい。電圧高めの積層電池でも普通に手に入るのは9Vなので足りません。昇圧型DC/DCコンバーターで作り出すこともできますが、いかにも大袈裟です。ここはちょっと我慢して単4乾電池を8本直列にするか、やや高価な6Vのリチウム一次電池2CR5を直列にするか。しかし2CR5用のホルダーなんて普通には手に入りません。

無理な工夫

そこで目を付けたのが、秋月で「単5型」と称して売られている12V電池の23Aタイプです。これならホルダーも(なんとか)手に入るし、1本50円と安価です。しかし、問題はLEDユニットの60mAという定格電流。23Aは中身がボタン型アルカリ電池の直列であることを考えると、普通はせいぜい数mAで使うことが想定されているはずです。流せば流れるでしょうがかなり無茶な使い方です。

そういうわけで、「気は心」程度に2本並列にしてみましたが、まだまだ無茶な負荷です。ボタン電池を3個使う安物LEDポケットライトみたいです。たぶんそんなに電池は持たないでしょう。このスペックのLEDユニットを使う以上仕方ありません。

組み立て方など

電気的な話は、特に書くことはないと思います。リード線を半田付けするだけ。DCプラグの半田付けをしたらカバーに線を通すのを忘れていた、なんて初歩的なミスは30年くらい前によくやりましたあはは。拡散板は乳白色のアクリルを切り抜いてもいいし、前世紀の遺物のトレーシングペーパーでもいいかも知れません。実体顕微鏡によってはプラスチックシャーレがぴったりはまることもあるそうです。

今後の展望

そもそもこの照明ユニットの特性が電池駆動向きではないので、どうしたって無理は生じます。なので、ポータブル透過光源としてこれ以上いいものが欲しければ、ここは潔くこのユニットと電池の組み合わせは諦めるべきでしょう。もちろんポータブル12V電源みたいなものが手に入れば別ですが…5Vならいくらでも手に入るんですがねえ…。

スマホ用モバイルバッテリーに昇圧型DC-DCコンバーターを組み合わせれば、12V 100mAくらいの電源を作ることもできると思います。コンバーターモジュールとしては、秋月だったらM-04132「1W級絶縁型DC-DCコンバーター(12V84mA)MAU104」あたりでしょうか。無負荷電流がすごく多いので、コンバーターは負荷(LEDユニット)側に組んだ方がいいでしょうね。自分が頻繁に使うならきっとこの構成で作ったな、うん。

いちから作るとなると、明るさはあまり期待できませんが、2.9V 5mAといったチップ白色LEDを並べる手もあります。ただし、LEDは特性のばらつきがあるため、並列にするとそれがモロに出てしまいます。個別に定電流ICや抵抗を入れてばらつきを吸収し電流の安定化をする必要があります。LEDには豆電球のような自己制御性はありません。少し高めの電圧を抵抗などで落とすことで安定化します。定電流ダイオードだと4-5Vくらい高めにする必要があります。上記で取り上げた照明ユニットが電源直結になっているのは、裏に制御回路が組まれているからです。