ハロゲンランプのこと

顕微鏡内蔵ケーラー照明、実体顕微鏡用の昔ながらのレンズを使ったプロジェクターランプ、最近主流のファイバー照明、いずれも光源は普通はハロゲンランプです(紫外光を得るため超高圧水銀灯を使う蛍光顕微鏡や発光ダイオードを使うような新しいものは別)。小さなタングステンフィラメントに大電流を流して高温で強烈に発光させるため、一般の電球とは取扱いが少々違います。例えばランプを素手で触ってはいけません。ハロゲンランプでは高温のフィラメントから昇華したタングステンをハロゲンの作用で再生させることで発光強度と寿命を両立させているのですが、ガラス内面で再生反応を起こすには高温(点灯時200℃とか)が必要なため、汚れが付くと焦げてトラブルの原因になります。素手で触って皮脂がつくと、熱で焦げて炭化してさらに熱を吸収し、過熱して破損することがあるそうです。お気をつけて。

それでも電球に球切れはつきものです。ハロゲンランプが突然点灯しなくなったときは、ランプに目視で異常がなくても実体顕微鏡でよく見るとフィラメントが1点で切れていたりします。フィラメントが太いので、普通の電球のように切れるとブラブラになったりはしないんですね。

ランプが切れる大きな原因に「突入電流(ラッシュカレントまたはインラッシュカレント)」があります。フィラメントに用いられるタングステンなど金属の電気抵抗は、一般に低温ほど小さく高温になると大きくなります。そのため、ランプが冷えた状態ではフィラメントの電気抵抗が定常点灯時より小さく、スイッチを入れた瞬間には定格よりかなり大きな電流が流れます。これが突入電流です(モーターやコンデンサにはまた別の理由による突入電流があります)。一般の電球でもスイッチを入れた瞬間に青白く閃光を発して切れることがありますが、これは典型的な突入電流による破壊です。フィラメントの一部に何らかの理由で細くなるなど熱的・電気的に不均一な部分があると、そこでは電源投入時の発熱が他より一瞬早くなります。すると熱で局部的に抵抗が大きくなるためさらに大きな熱が発生し、他の部分の抵抗値が上がって全体の電流が減少するまでにタングステンの融点3422度に達すると、溶断による破壊に至ります。このように、ランプにとって急な電源投入(要するにスイッチを入れること)は負担のかかることです。

従って、電球の寿命を延ばすには、無駄に長時間点灯させてフィラメントを蒸発させることを避けるのも重要ですが、なるべく突入電流を抑えたソフトスタートを心がけるのが有効です。具体的には、なるべく低い電圧でスイッチを入れてから電圧を上げるようにします。照度調節と電源が別になっている場合、調節を全開位置なり通常使用位置なりにしたままオン・オフするのはランプ寿命を考えるとダメってことです。機械によっては写真位置での長時間使用も寿命に響きます(古い資料には超輝なんて言葉があったりします)。ファイバー光源によくあるスイッチ付き調節つまみなら、数秒かけて回すのがおすすめです。

それでも切れるときには切れますから、予備を用意しておくのは基本です。このあいだニコンの照明装置(俗に言うトランス)MODEL XNのランプが切れてしまって、ってそんな大昔のもの使ってるのかとあきれないで下さいよ、いいじゃないですか十分役に立つんだから、予備電球はないし機械の取説もとうに散逸しているしで、どのランプが適合するのか、それ以前に果たして適合するランプが今でも入手可能なのかと途方に暮れました。

でも調べたら比較的簡単に分かりました。G4ソケットの6Vハロゲンランプでいいようです。トランスの定格は3.3Aまで流せる、ということは20Wの駆動能力があり、多分オリジナルも20Wだったのでしょう。三菱オスラムのJ6V10W-AXSが安くて(500円くらい)入手性もよかったのでこれに変えましたが、10Wしかないのでちょっと暗くなりました。また、オリジナルとはフィラメントの位置が少し違うので、ソケット部をランプハウスからやや抜き出し気味にする必要があります。寿命は4000時間もあるので、上に書いたようにして大事に使えば10年くらいはもつでしょうか(もちすぎ?)。ただしそれではトランス部に負担をかけるので、次にいかれるのはトランス部の接点周りかも知れません。そうなったら…DC-DCコンバータか何かで電源自作かな。この装置くらい古いと、ランプの寿命を縮めるのを覚悟で電圧を固定しておいた方がトータルコストは安いかも知れません。もちろん整備は自己責任。

このタイプのハロゲンランプは12Vが主流で6Vの選択肢はあまりないのですが、他のメーカーには20Wのものもあったことを後になって知りました。岩崎電気とフィリップスで、前者は光学機器用で2000時間持ちますが、後者はマイクロフィルム用で100時間しか持たないそうです。きっとその分高性能なのでしょう。…岩崎電気のはカタログ落ちしたみたいです。今のうちに入手すべきかも。