何でも構いませんが適当な糸状菌用寒天培地を使い、殺菌した種子を置いてかびや細菌が出てこないかチェックします。種子は濡れた状態で置きます。置き方はなるべく等間隔にします。私はきのこからの分離の時と同様に1枚19個というパターンでやっています。てきとーに置くこともありますが。必ず毎日チェックして、万一かびが出るものがあったら生き残りの種子を新しい培地に移します。かびた種子を除去しようとしてもたいていかびは除去しきれません。これもきのこからの菌株の分離と同様。
検定期間は5日程度として、月曜に殺菌して金曜までにかびが出てこなければほぼ大丈夫と見なしています。足の速い雑菌がいると培地に置いてすぐに蔓延することがあるので、金曜日とかに処理すると週末に毎日チェックする羽目に。新しい種子なら90%以上の歩留まりが見込めます。古いと保存中に死んでかびなどの侵入を受けた種子の割合が高くなります。
無菌性検定と同時に発芽促進処理をかけることもできます。促進とはいっても主な目的は発芽時期を揃えることで、無菌系ではホルモン処理を行います。なお、アカマツやクロマツは光発芽種子なので光も当てるようにします。連続光より昼夜があった方がよいので、可能ならそうします。机の上に置くというのもチェックしやすいので悪くはないでしょう。その場合当然しっかりシールします。ただし酸欠になるとあっさり死ぬことがあるので、シールする場合は種子の数を控えめに。19個蒔きならたぶん大丈夫(近年さっぱり無菌系やってないので勘が鈍ってます)。シールをしない場合も、ガラスシャーレはプラスチックシャーレに比べ換気が悪いので、たくさん播種するときは要注意です。
ホルモン処理にはジベレリンを用います。私は入手しやすいGA3を使っています。10-20μM程度で用いるものだそうで、分子量が300くらいですから、5mgを1リットルに溶かせばだいたい必要濃度になります。とはいえ1リットルもできても困りますから、0.1mgが量れる天秤でなるべく少量のGA3を量り取り、それに応じて水を加減しています。やや溶けにくいので超音波をかけたり少量のエタノールやアセトンに溶かして薄めたりします。これを孔径0.45μm程度の親水性メンブレンフィルターで濾過除菌して使用濃度の無菌ホルモン溶液とします。具体的には注射筒に吸い上げてから針の代わりにフィルターを取り付けてぽたぽたと出して濾過します。殺菌が終わった種子をこの溶液にしばらく漬けて、濡れた状態で無菌性検定用培地に置いてやります。培地に種子を置いてからホルモン溶液を滴下することも、培地をホルモン溶液で濡らしてから種子を置くことも。なお、このやり方は十分に最適化したものではないので、まだ改善の余地があるはずです。
ジベレリンは植物生長調節剤としても(試薬と比べれば)安価に市販されており、多分使えるはずですが、添加剤が含まれているので濾過除菌に支障があるかも知れません。その辺は試行錯誤よろしくです。
培地上に1週間も置くとそろそろ根が出はじめてきます。そのままにしておくと根が曲がりくねって使いにくくなってしまいますから、数mm以上伸びる前に早めに適当な発芽床に移します。苗にまで育てず種子のまま菌根合成のための容器などに移すこともあります。発芽床で根の伸び具合をチェックしやすいようにするには、発芽床の材料に1%くらいの薄い寒天を使います。最適濃度は寒天のメーカーによって異なります。根が見えなくていいなら、滅菌した砂その他の素材を使ってももちろん構いません。バーミキュライトを使うと根が粒子を層に垂直な方向に貫いて伸びることがあり、除去に苦労しますのであまりおすすめできません。「芝の目土」として売られているごく小粒の赤玉土が、経験上は一番扱いやすい材料です。
細かいことを言えば、根は種子の尖った部分から出るので、そこを下にして培地に挿すようにするとまっすぐ伸びた苗が得られます。また、培地に入り損ねた根が表面をのたくるようなこともありません。数が多いとやってられませんけれど。
発芽床にはそう長い期間おくわけでもないので、容器としてはマヨネーズ瓶などが使えます。コニカルビーカーにアルミ箔の蓋でもいいですし、試験管をたくさん使う方法もあります。組織培養用フラスコでは口が小さすぎて作業が困難でしたが、ボトルシップを作れるような器用な人なら問題ないかもしれません。試験管をたくさん使う場合は、採血用の短いものが適しています。1本につき2個か3個程度の種子を入れます。試験管を使う場合はもしコンタミが出てもその試験管以上に被害が広がりませんから、無菌性検定を省略することも可能なはずです―やったことはありませんが。やるなら素寒天ではなく多少栄養の入った培地が必要です。
芽出しの段階では、腰高シャーレに湿った芝の目土を入れて滅菌したものに催芽(発芽処理)種子を置くのが今のところ一番やりやすい方法です。尖端を下にして突き刺すのも容易です。また、丸ごと冷蔵庫に入れることである程度発芽時期のコントロールができますが、ばらつきが出るのは仕方ありません。