先人達の足跡

 

 森林総合研究所北海道支所の前身である林業試験場北海道支場(札幌支場)、内務省野幌林業試験場、帝室林野局北海道林業試験場に在籍した研究者の中からピックアップして、業績を紹介します。

 

新島義直

井上元則

伊福部昭

 

新島義直(にいじま よしなお)

Yoshinao NIIJIMA, 18711943

 野幌林業試験場の第4代場長であり、1912年(明治45年)から1934年(昭和9年)の20年余りにわたって場長を務めた。

 明治4年(1871年)、東京生まれ。東京帝国大学林学科を卒業後、札幌農学校(のちの東北帝国大学農科大学、北海道大学)の最初の林学教授として1899年札幌に赴任して、造林学、森林保護学を教えた。1905年、ドイツに留学。2年後に帰国して、東北帝国大学農科大学の林学科の講義の中に日本で唯一の「森林美学」という科目を開講した。

野幌林業試験場の場長のほか、北大農学部付属演習林長も兼任し、トドマツ、エゾマツの育苗、森林害虫の防除などに功績をあげた。

「森林保護学」(1900)、「森林昆蟲学」(1913)、「森林美学」(村山醸造との共著、1918)などの専門書を執筆したが、敬虔なクリスチャンでもあり、子供向けの訓話集「もみの小枝」(1910)を著した。

 

 

 

 

井上元則(いのうえ もとのり)

Motonori INOUYE, 19011990

 

明治34年(1901年)、宮城県生まれ。小学校教員である父親の仕事のため、函館市へ移住した。函館中学校卒業後、北海道庁林務技手養成講習所を経て、1922年、札幌営林区署に勤務。1934年、北海道林業試験場研究員となる。1947年、林業試験場札幌支場(のちの北海道支場)に勤務となり、その後、同支場の病理昆虫研究室長、保護部長を務めた。

最終学歴は中学卒業であるにもかかわらず、ドイツ語で森林害虫に関する論文を執筆し、農学博士の学位を取得した。キクイムシやアブラムシをはじめとする森林害虫の研究者として業績をあげ、「林業害虫防除論(上・中・下1)」を著す(19511960)が、未完に終わる。

バードウォッチャーにとっては、稀少なキツツキであるミユビゲラの発見者として有名な存在である。1942年、風倒木に発生する昆虫の調査のために上士幌町十勝三股の原生林を訪れた井上と五十嵐文吉によってミユビゲラが発見され、翌年、山階芳麿により新亜種として記載された際に、学名Picoides tridactylus inouyei に井上の名がつけられた。

自然科学の普及活動や社会教育にも熱心で、1947年に結成された江別自然科学同好会の運営にあたった。林業試験場の退職後は北海道栄養短期大学(現北海道文教大学)で教鞭をとるとともに、自宅を自然保護研究所として自然保護や啓発活動にあたり、北海道野鳥愛護会の会長を務めた。江別市議会議員も12年にわたって務めた。

著書「原色生態図鑑北海道の野鳥」(1977)は野鳥愛好家に親しまれた。

 

 
 
 

 

伊福部昭(いふくべ あきら)

Akira IFUKUBE, 19142006

 

大正3(1914年)、北海道釧路町(現釧路市)生まれ。小学生の時、父が河東郡音更村の村長となったため、音更村に移り、同地でアイヌの人々と接し、大きな影響を受けた。1932年、北海道帝国大学農学部林学実科に入学。1935年、大学卒業後、帝室林野管理局森林官吏となり、厚岸森林事務所に勤務。1940年、北海道帝国大学の演習林事務所に勤務。

終戦間際の1945年、帝室林野局北海道林業試験場に戦時科学研究員として勤務して、放射線等による航空機用の木材強化の研究に携わるが、防護服は用意されず、無防備のまま実験を続けた。研究成果を得られずに終戦を迎え、その後、突然喀血して倒れたが、木材振動実験に伴う振動障害と過度の喫煙が原因とされる(放射線障害とも言われるが、定かではない)。航空機に関する研究は占領軍により禁止となり、病気もあって、退職した。

10代から音楽に親しみ、ほぼ独学で作曲を学び、20代で勤務の側ら作曲活動に取り組んで、国際コンクールでの入選歴もあった。林業試験場退職後、東京に移り、音楽活動に専念して、日本を代表する作曲家となった。オーケストラ曲を多数作曲したほか、本多猪四郎・円谷英二監督による特撮映画「ゴジラ」(1954年公開)を初め、数多くの映画音楽の作曲を手掛けた。教育者としても後進の指導にあたり、1946年には東京音楽学校(現東京藝術大学)の講師に就任し、1970年代以降は東京音楽大学で教授、学長を歴任した。音楽関係の著書も多数ある。

 

 

参考資料

江別市情報図書館(2013)“社会教育事始め”「自然科学同好会」と井上元則のこと.情報図書館だより284号.

北海道林業技師会(オンライン)野幌森林公園(その1).http://blog.canpan.info/sinrinkankyo/

伊福部昭(1957)転向10年.自然19579月号(中央公論社).

伊福部昭(2003)音楽入門(新装版).全音楽譜出版社,東京.

伊福部昭公式ホームページ https://www.akira-ifukube.jp/

井上元則(1951)林業害虫防除論 上巻.地球出版,東京.

井上元則(1953)林業害虫防除論 中巻.地球出版,東京.

井上元則(1960)林業害虫防除論 下巻1.地球出版,東京.

井上元則(1977)原色生態図鑑北海道の野鳥.北海タイムス,札幌.

新島義直(1910)もみの小枝.北文館,東京.

新島義直(1913)森林昆蟲学.博文館,東京.

新島義直・村山醸造(1991)森林美学(覆刻版).北海道大学出版会,札幌.

斉藤春雄(1990)紙碑 井上元則氏を悼む.日本鳥学会誌384号.

 

From 21 Feb. 2017

Last update 22 Feb. 2017

(佐藤重穂)

 

 

 

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