市ノ又試験地

 

高知県幡多郡四万十町(2006年合併前の旧大正町)の市ノ又山国有林には、約200年生の天然林52haがあります。

四国の低山域では、森林のほとんどが人間に利用されてきているので、これだけまとまった面積の老齢天然林が残っている場所はきわめて貴重で、四国森林管理局によって「市ノ又風景林」として指定されています。

森林総合研究所四国支所では、森林生態系の動態を長期的にモニタリングするために、この天然林内に「市ノ又森林動態観測試験地」(通称‘市ノ又試験地’)を1995年に設定して、1haの調査プロット内の毎木調査を繰り返し実施するとともに、この試験地を利用して森林に関するさまざまな研究を実施しています。

 2005年には市ノ又試験地は、環境省が日本全国で実施する自然環境モニタリング調査「モニタリングサイト1000」の森林コアサイトの一つに選定され、森林生態系についての各種のモニタリング調査を継続して行っています。

 

※モニタリングサイト1000:詳しくは環境省生物多様性センターのホームページをご覧ください。

 

市ノ又風景林の概要

市ノ又試験地の植生

市ノ又試験地の鳥類

市ノ又試験地の昆虫

市ノ又試験地での研究成果

 

 

(写真) 市ノ又試験地の概観 天然生林が島状に残されている

 

市ノ又風景林の概要

市ノ又風景林は四国南西部を蛇行して流れる四万十川の支流の一つである葛籠川の源流域にあり、標高は約440780 mです。

市ノ又試験地は北緯33°8’ 42”、東経132°55’ 2”に位置します。年平均気温は摂氏12.7度、最寄りのアメダス観測点(大正)における年降水量は2735 mm19792000年の平均値)です。

 

(写真) 市ノ又試験地の様子 天然性のヒノキやツガの大木が生えている

 

 

(写真) ツガの大木                 (写真)ヒノキの大木 「根上がり大将」

 

市ノ又試験地の植生

天然林の高木層はヒノキ、ツガ、モミなどの針葉樹が優占し、ウラジロガシ、ツクバネガシなどの常緑広葉樹が混生しています。また、亜高木層と低木層にはサカキ、ヤブツバキ、シキミ、イヌガシなどの常緑広葉樹が多く成育します。

 

     

(写真) 市ノ又試験地の林内             (写真) 市ノ又試験地の様子 

 常緑広葉樹が生育する               落葉量を計測するために調査器具を設置している

 

市ノ又試験地の鳥類

 これまでに40種あまりの鳥類が確認されています。夏鳥としてアカショウビン、オオルリ、ヤブサメなど、冬鳥としてジョウビタキ、シロハラ、マヒワなど、留鳥としてヤマドリ、アオバト、ウグイスなどが見られます。

繁殖期(56月)に行ったなわばり数の調査で記録が多い種類はシジュウカラ、ミソサザイ、オオルリ、ヒヨドリ、ヤマガラなどです。

 市ノ又国有林の鳥類リスト

 

市ノ又試験地の昆虫

 これまでにカミキリムシ、キクイムシ、オサムシ、アリについて調査を行いました。それぞれ次のように研究成果が発表されています(カミキリムシとアリについては、市ノ又試験地を含む四万十川流域の多地点での調査結果です)。

 

カミキリムシの調査結果

市ノ又試験地を含む四万十川流域の多地点でカミキリムシを採集して種構成を比較したところ、老齢の天然林、二次林、スギ・ヒノキ人工林でカミキリムシ相が大きく異なり、老齢の天然林には特異的にヒメハナカミキリ属の種が多く生息することが明らかになった。 Maeto et al. (2002) Biodiversity and Conservation 11:1919-1937. Abstract

キクイムシの調査結果

採集されたキクイムシ科・ナガキクイムシ科昆虫のリスト

伊藤ほか(2006) 森林総合研究所研究報告 5: 205-207. (PDF)

オサムシの調査結果

       市ノ又試験地におけるピットフォールトラップでオサムシ科昆虫を20052008年に調査した結果、捕獲されるオサムシ科昆虫が減少傾向にあった。同じ時期に同試験地で下層植生の被度が低下していた。

       佐藤ほか(2010) 森林応用研究 19: 33-36.

アリの調査結果

市ノ又試験地を含む四万十川流域の多地点でアリを採集して種構成を比較したところ、森林タイプによってアリの生息種数には違いがみられないものの、老齢の天然林は森林性の種が多く生息するのに対して、二次林やスギ・ヒノキ人工林には開けた環境を好む種が多く生息することが明らかになった。

Maeto and Sato (2004) Forest Ecology and Management 187:213-223

 

市ノ又試験地での研究成果

 市ノ又試験地での研究の成果が掲載されている論文等のリストです。

 

森貞和仁・平井敬三(1995)市ノ又国有林流域の渓流水質.日本林学会関西支部論文集 4: 55-58.

酒井武・川崎達郎(1995)天然生ヒノキ・ツガ林から渓流へのリター・土砂の流入量.第106回日本林学会大会論文集: 317-318. 要旨

酒井武・川崎達郎・田淵隆一 (1996) 市ノ又風景林の林分構造.日本林学会関西支部論文集 5, 123-126.

酒井武・倉本恵生・大黒正・田淵隆一(1998)ヒノキ、ツガ、モミの種子散布と実生の発生・消長.森林応用研究 7: 71-74.

酒井武・田淵隆一・倉本恵生・大黒正・酒井敦(1999)クロバイの更新と生育特性.森林応用研究 8: 223-224.

酒井武・田淵隆一・倉本恵生・酒井敦(1999)市ノ又試験地における林分構成個体の成長と枯死パターン.森林総合研究所四国支所年報40: 19-20. (PDF)

倉本恵生・酒井敦・酒井武・田淵隆一(2000)四万十川流域の暖温帯上部天然林におけるリターフォール量の季節変化.森林応用研究 9(1): 107-111.

酒井武・田淵隆一・倉本恵生・大黒正・酒井敦(2000)ヒノキ・ツガ天然林内の実生の生残.森林応用研究 9(1): 153-154.

佐藤重穂(2001)市の又国有林における鳥類相の季節変化.森林総合研究所四国支所年報41: 39-42. (PDF)

K. Maeto, S. Sato and H. Miyata (2002) Species diversity of longicorn beetles in humid warm-temperate forests: the impact of forest management practices on old-growth forest species in southwestern Japan. Biodiversity and Conservation 11:1919-1937. Abstract

佐藤重穂・黒岩哲夫・豊田陽一(2002)四国中南部の低山帯天然林における冬季の鳥類相の特徴.森林応用研究 11(2): 21-26.

K. Maeto and S. Sato (2004) Impacts of forestry on ant species richness and composition in warm-temperate forests of Japan. Forest Ecology and Management 187:213-223.

伊藤昌明・佐藤重穂・松本剛史・梶村恒(2006)高知県市ノ又山国有林においてエタノールで誘引された養菌性キクイムシ類.森林総合研究所研究報告 5: 205-207. (PDF)

酒井敦・酒井武・倉本惠生・佐藤重穂(2006)四国の中標高域における天然林とこれに隣接する針葉樹人工林の埋土種子組成.森林立地 48:86-90. 要旨

佐藤重穂・豊田鮎・松本剛史(2010)市ノ又森林動態観測試験地におけるオサムシ科甲虫の捕獲数の経年変化.森林応用研究 19: 33-36.

 

 更新履歴

 200758日 作成

 20081022日 一部修正

 2011325日 一部修正

 

 

森林総合研究所四国支所のページへ戻る