ピンセットのメンテナンス

我流・ピンセットのメンテナンスとカスタマイズ

あくまで我流です。研究室に代々受け継がれてきた技法とかじゃありません。ちょっとした個人的な試行錯誤の結果に過ぎず、研鑽を積み重ねて到達した境地とかとは深みが全然違います。まあ参考程度に。特に手を抜きたい人へ。


どんなときにピンセットを研ぐか

ピンセットにもいろいろありますが、種子をつまんだりするのに使う緩くS字を描いたルーツェ型やもっと大きな技工型のほか、実体顕微鏡下で行うような微細な作業には精密ピンセットをよく使います。精密ピンセットは先端が針のように細いため、気をつけて作業していても何かの拍子にぶつけて曲げてしまうことがあります。取り落としたりしたらもう悲惨。そういうときはメンテナンス作業が必要です。大修理にはそれなりの大技?雑技?を使うこともありますし、修正して研いで仕上げることは時々あります。

精密ピンセットの場合、8,000円とかするような高級品なら市販のままでもそこそこ使えますが、1,000円を切るような普及品では買ったままではしっくりこないことがあります(控えめな表現)。そういうときはカスタマイズです。やっぱり研いで自分の好みに合わせます。無銘のGG型でもちゃんと加工すればそれなりに使えます。

ただし、普及品とはいっても100円ショップのものではハズレを引くと限界がありました。国産ならKFIみたいなちゃんとしたメーカーの品物にすべきでしょう。

私が使っているピンセット

私が一番集中的にピンセットを使うのは、土壌サンプルから土砂と夾雑物を取り除いて菌根を含む根系を取り出したり、菌根を根からつまみ取ったり、菌根の周囲の菌糸に絡んだ1mm以下の砂粒を一つ一つ取り除いたりする時です。いずれも実体顕微鏡下の作業です。こういうときには、いまは亡きスイスのFONTAX社のSSと5番を併用しています。学生時代にFONTAXの5番に行き着いて、そのときはチタン製でしたが、就職してからはTaxal合金製のを使っています。かれこれ20年。FONTAX社は廃業してしまいましたが、たぶん退職するまで使えるでしょう。Dumont社のものも評判がよいようです。

個人的意見ですが、よいピンセットは一生ものです。特に特殊合金製やチタン製のものは。ステンレス製だとそこまでの耐久性はないかも知れません。中には消耗品と割り切ってがんがん研いで使い潰す人もいますし、安価なステンレスならそれでよいのかも知れません。でも趣味じゃないなぁ。

それはさておき、FONTAXの5番は針のように鋭い先端を備え、かなりの力をかけても先端がずれたり反り返ったりすることがありません。閉じるのに必要な力は1N (100gf)ほどでした。本当はもう少し軽い方が好みなのですが。

併用しているSSの方は、主に材料の保持や力作業に使っています。先端にやや厚みがあり、両手でSSを使えば維管束の発達したマツの当年生長根をちぎることもできます。こちらは逆に柔らかくて0.2N (20gf)ほど。もうちょっと重くてもよかったのですが。

このほか、種子の取り扱いなどmg単位以上のものにはルーツェ型の170mmを主に使っています。実に万能です。寒天培地に種をまくときなど、職場のクリーンベンチに備え付けられていたK-14も結構いい感じ。これを曲げた人がいたのには仰天。そういえば、クリーンベンチの備え付けピンセットはよく修理している気がする…。

ピンセットの修理

床に落とすなどして先端が曲がってしまったピンセットは、状態にもよりますが、たいていはそれなりに使えるよう修復できます。人によっては曲がった部分を全部砥石で削り落としてしまいますし、たぶんその方が強度のある先端を得られるでしょう。でもここはけちくさく曲がった部分を直す手軽な方法を紹介します。

なお、曲がったピンセットを直すとどうしても強度が落ちます。完全に元通りにはなりません。再発もしやすくなりますし、下手をすると修正中にぽろっともげたりします。そのへんはご理解下さい。

曲がったピンセットを直すには、ピンセットを使います。…え?おかしい?いいえ、おかしくありません。GG型とかAA型とか(以下GG)のピンセットの股に挟んでうりゃっと直すのです。もちろん質のいいリードプライヤー(メカニックプライヤーとも:ラジオペンチの刃がなくて先端がぎざぎざのないフラットな形状になっているもの)を持っていればそれを使った方がいいのですが、GGほどには普及していませんから。GGでも側面から見た形状が直線的であまり弓なりになっていないものが適しています。

粗修正をするには、修理対象のピンセットの曲がった部分から先をGGの股に横から挟んで、ゆっくりと逆方向に曲げて修正します。工具代わりのGGにあんまり力を入れると、いくら安いGGでもちょっとかわいそう。横方向から挟む場合、レバー比が大きいのでそんなに締め付けなくても充分固定できます。わずかな修正なら、GGの横からではなく先の方から挟んで、先端全体を締め付けて伸ばします。このときはレバー比が小さくなるので少し力を入れる必要があります。横から挟んだときに比べGGへの力のかかり方が均一なので、少しくらい力を入れても大丈夫。おかしくしたことはありません。どちらの挟み方が適当かは曲がり方や曲がりの角度にもよります。要は直ればいいのです。

粗修正が済んだら、先端の食い違いがないか、閉じた状態でできればルーペか実体顕微鏡でチェックします。食い違いがあれば、どちらかが曲がっているかを見極めて、曲がっている方をまたGGに挟んで直します。わずかなずれは後回し。

食い違いの修正がだいたい終わったら、左右それぞれについて、開閉方向にだいたいまっすぐになるよう粗修正です。一度できちんと直るわけがないので、チェックと修正を繰り返します。

食い違いを修正し、開閉方向にもだいたいまっすぐになったら、次はきちんと閉じるかどうかをチェックします。光源にかざして隙間を漏れる光で確認します。いい状態のピンセットは、ぎゅっと閉じた状態(むろんものには限度があります)で先端が十分な長さにわたって隙間なく閉じます。もちろんどれだけの力をかけるかはタイプや腰の強さ(ピンセットのバネの硬さ)によって違うので相応に。曲げてしまったものは、曲がりを直したつもりでも閉じた状態で光源にかざすとたいていまだらに光が漏れています。

隙間が大きい場合は、またGGの出番です。隙間が点で途切れている、つまり1点が接している場合、特にその先が先端まで接していない場合は、接している点から先をGGに挟んで閉じる方向にわずかに曲げます。逆にあるところから隙間が小さくなって先端が閉じている場合は、そのポイントから開く方向にわずかに曲げます。曲げてはチェックの繰り返し。左右方向の微調整もここで。

だいたい隙間がなくなったら、そのピンセットの実用最大くらいに力をかけてチェックします。うっかりすると隙間をなくそうとしすぎて必要なしなりの余地を消してしまっていて、力をかけると先端が反り返って開いてしまうことがあります。これでは具合が悪いので、適当なところで内向きに曲げて力をかけても先端が開かないようにします。いいピンセットはこの辺がよくできていますが、元がそうでもない場合はあまり多くを求めると徒労に終わるかもしれません。

ピンセットを使った荒療治が済んだら、研ぎにかかります。ここはいろいろな分野の人がそれぞれの技を編み出している領域ですが、私の場合はすごく安易な道具を使います。「ダイヤモンドやすり」です。番手は#300と#800くらいで。オイルを使うと面倒なので、空研ぎしては粘着テープで掃除します。

ダイヤモンドやすりのいいところは、厚さが1mm以下なので、ピンセットに挟んで内側を研ぐことができるところです。内側のでこぼこを消す方法はこれかサンドペーパーしかないでしょう。もちろん外側も望むように研ぐことができます。実体顕微鏡下で研いでもいいですが、私は光にかざしながら仕上げる方が好きです。細さ、バランスも充分分かりますし。