速報

クロマツ苗の針葉木部圧ポテンシャルに及ぼす菌根菌接種の影響*1

明間民央 *2

明間民央:クロマツ苗の針葉木部圧ポテンシャルに及ぼす菌根菌接種の影響 九州森林研究 58:162-163, 2005 クロマツ6ヶ月生実生に菌根菌ショウロを胞子懸濁ゲル法により接種し、定着を確認した個体と対照の無菌根個体を14ヶ月齢まで育成した。25℃40%RH, 16時間明期・8時間暗期とし培土の水分量を飽和時の1/2に制御して102日間維持した後、針葉の圧ポテンシャルを測定した。明期では菌根菌接種個体と非接種個体とで有意差はなかったが、暗期終了前に測定した値は接種:-570± 32kPa、非接種:-980± 33kPaとなり、菌根菌接種により針葉木部圧ポテンシャルが有意に高くなっていた。また水分制御18日目にマツノザイセンチュウを2500頭接種する試験区を設定したが、病徴の進展速度に統計的に有意な差はなく、また発病したものはすべて枯死した。

キーワード:クロマツ,菌根菌,木部圧ポテンシャル,マツ材線虫病

*1 Akema, T. : Effect of mycorrhizal inoculation on the water potential of the needles of Japanese Black Pine seedlings.

*2 森林総合研究所九州支所 Kyushu Res. Center, For. and Forest Prod. Res. Inst., Kumamoto, 860-0862

I. はじめに

クロマツは日本の代表的な海岸林構成樹種で、古くより白砂青松と称されるように、人為的な落枝落葉の収奪の結果として非常に貧栄養かつ水分条件の不安定な砂地に成立してきた。一方で、クロマツの属するマツ科は代表的な外菌根性樹種のグループとして知られている。外菌根には多様な機構による土壌病害からの保護(Duchesne, 1994)と養分吸収能増強による生長促進(Bougher et al. 1990)の機能があることが古くから知られ、主に海外で植林用に利用された実績がある。たとえば露天掘り鉱山跡地など劣悪な条件に植林を行うときにも菌根菌の一種であるコツブタケが利用された(Marx et al. 1984)。また、より広い範囲の宿主に形成される共生菌や構造の異なる菌根であるVA菌根も同様に利用され、国内でも園芸・緑化資材として市販されている(出光興産「Drキンコン」、セントラル硝子「セラキンコン」など)。VA菌根については水分吸収を促進することが古くから知られていたが、外菌根の水分吸収促進機能に関する報告は比較的少なく(Shi et al. 2002 など)、特に食用菌根菌の機能についての情報が不足している。

また、菌根が水分吸収を促進するのであれば、萎凋病であるマツ材線虫病の発症に対し抑制的に作用することが考えられる。実際に、斜面に立地したクロマツ林では斜面上部には菌根が多くてマツ材線虫病による枯損が少なく、下部はその逆であるという例が知られている(Akema and Futai 2005)。

そのため、本研究においてはクロマツ実生とその典型的ニッチに分布する食用外菌根菌であるショウロとを用いた合成菌根系を用い、菌根がクロマツの樹体内木部圧ポテンシャルとマツ材線虫病の進行に与える影響を調査した。

II. 材料および方法

市販クロマツ種子を次亜塩素酸カルシウム飽和水溶液で1時間消毒した後にバーミキュライト上に播種し温室内で育成した6ヶ月生クロマツ無菌根苗に、ショウロを接種して菌根菌接種実生を作成した。接種の方法は胞子懸濁ゲル法(特許公開2003-52243)により、ショウロの子実体を同量の水とともに摩砕して得た担子胞子懸濁液をアルギン酸ナトリウム1%水溶液に10%混合し、これに実生の根を浸してすぐに0.1規定の塩酸でゲル化させることによって行った。

3ヶ月後に菌根の定着を確認した上で、培土を海砂とパーライトの同体積混合物に変更し、直径9cmの鉢に1鉢につき2個体として24鉢48個体植え付け、菌根菌接種苗とした。同様にして121℃で15分間滅菌した胞子を用いて無菌根対照苗を作成した。これを25℃相対湿度60%、12時間明期・暗期、照度12,500luxの人工気象器(NK system LPH-200-RDS)内におき、週1回十分に潅水する条件で14ヶ月齢まで育成した。その後水分条件を制御するため25℃相対湿度40%、16時間明期8時間暗期とし、土壌水分は飽和水分量の1/2となるよう3日おきに鉢の重量を測定して減少した分の水を追加した。

水分制御開始102日目の明期終了前に各鉢1個体から短枝の針葉を2束採取し、各束の1本について木部圧ポテンシャルをプレッシャーチェンバー(Soil moisture社製)によって測定した。さらに、野外ではあり得ない暗期の低湿度により木部圧ポテンシャルが過小評価になるのを避けるために次の暗期の相対湿度を95%として、暗期終了直前に同様に針葉を採取し、圧ポテンシャルを測定した。また水分制御開始後18日目に各鉢の木部圧ポテンシャル測定に用いない1個体ずつに対しマツノザイセンチュウS10系統を2500頭接種し、枯死過程を観察した。なお、線虫接種処理中に菌根菌接種区では1鉢が失われたため、菌根菌接種区での測定は23鉢46個体を対象とした。

III. 結果と考察

針葉の木部圧ポテンシャルを表−1に示す。明期では菌根菌接種区と非接種区との間に有意な差はなかったが、暗期終了前はMann-whitneyのU-検定により有意水準0.001で差が見られ、明らかに菌根菌接種により夜間の木部圧ポテンシャルの回復が促進された。

表−1.針葉の木部圧ポテンシャル(kPa)
菌根菌接種非接種
明期-1240±48-1200±45
暗期-570±32-980±33

(平均値±標準誤差)

明期に木部圧ポテンシャルに差がなかったのは、極端な水ストレスがかからなかったためと考えられる。これは、実験終了後に今回実験に用いた条件における土壌水ポテンシャルを加圧板法によって測定したところ、わずかに-5kPa程度に過ぎなかったことからも示される。ただし、実験期間中は常に鉢の表面が乾燥しているなど土壌水分は偏在しており、実際に根が存在した部位の土壌水ポテンシャルは均質な検体で得た上記の値と同じではないと思われる。

菌根菌接種および非接種の苗のうち、線虫接種により枯死したものは、それぞれ接種した23本中15本、24本中10本と強度の接種を行ったにしては少なく、終了後の調査でも接種部で乾燥死していた線虫が数多く見られ、接種条件に問題があり十分な数の線虫が樹体内に侵入しなかったものと考えられる。病徴を示したものについてその進展を図−1に示す。病徴1は針葉のわずかな褪色、2は明らかな褪色、3は褐変、4は完全な枯死を示す。

菌根菌を接種した苗では、菌根菌非接種のものに比べて線虫接種から発病までの期間がやや長引きばらついたが(接種:平均25.1日±標準誤差3.1日、非接種:22.6±2.2日)、統計的に有意な差はなく、接種から枯死までの期間(接種:33.9±2.7日、非接種:31.4±2.1日)および発病から枯死までの期間(接種:8.8±0.6日、非接種:8.8±0.7日)も同様であった。

図−1.菌根菌接種区(上)および非接種区(下)におけるマツノザイセンチュウ接種後の病徴の進展

今回の結果より、菌根菌接種がマツ材線虫病の進展に影響を与えるか否かについては結論が出なかったが、菌根が夜間の木部圧ポテンシャルの回復を明らかに促進することから、クロマツは菌根菌ショウロと共生することによって、乾燥にさらされやすい環境に対する適応度を高めていることが明らかになった。

引用文献

(2004年11月8日 受付;2004年12月20日 受理)


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