速報

雲仙普賢岳火砕流跡地に移植したアカマツ実生苗の生存と菌根菌接種の影響*1

明間民央 *2

明間民央:雲仙普賢岳火砕流跡地に移植したアカマツ実生苗の生存と菌根菌接種の影響 九州森林研究 57:261-262, 2004 火山噴火災害跡地では防災のため早期の森林成立が望まれるが,日本の代表的先駆樹種であるアカマツは外菌根性である。一方火山での一次遷移初期には菌根菌が存在しない。このような環境でのアカマツ実生の定着と菌根形成を調査するため,雲仙普賢岳の火砕流堆積物上にアカマツ当年生実生苗を移植し観察した。その結果大半の実生苗は1年以内に枯死したが,生存個体の多くには菌根形成が見られた。しかし菌根菌を実生苗に直接接種しても明らかな効果はなく,既に定着し菌根系をもつ天然生個体との菌根菌共有の影響が大きいようだった。しかし,それ以外では実生苗への菌根の自然定着は見られなかった。

キーワード:荒廃地,一次遷移,菌根菌,アカマツ

*1 Akema, T. : Establishment and mycorrhizal development of Japanese Red Pine seedlings transplanted on a pyroclastic flow deposit of Mt. Unzen.

*2 森林総合研究所九州支所 Kyushu Res. Center, For. & Forest Prod. Res. Inst., Kumamoto, 860-0862

I. はじめに

雲仙普賢岳の1990年から1995年にかけての噴火活動では数千回の火砕流が発生し,水無川流域には現在もその堆積物が厚く積もって防災上のリスクとなっている。土砂の安定化のため早期の森林成立が望まれるが,現時点では航空実播により成立したハギ類,オオバヤシャブシと,わずかな天然生アカマツが点在するのみである。アカマツは荒廃地にも耐えて成林する先駆樹種であるが,その貧栄養や乾燥に耐える能力は外菌根に負うところが大きい。しかし火砕流跡地には菌根菌を含む土壌微生物が少なくとも堆積当初は存在しない。このような環境における菌根性樹木の定着については,米国ワシントン州のセントヘレンズ火山での報告(Allen et al., 1992)があるが,火山灰の堆積した平原上に移植された菌根性樹木の生長は悪く,埋没土壌からの菌根菌接種源の供給があってようやく正常な生長が見られた。はるかに小規模な雲仙の火砕流被害地では,アカマツの正常な生長に必要な菌根菌接種源は周囲の林分から供給されるのか,またアカマツ実生苗は菌根を持たないまま接種源の供給まで生存できるのか,さらに接種源の供給があれば定着は改善されるのかを移植実験により調査した。

II. 材料および方法

長崎県島原市水無川上流の赤松谷において,1990-1995年の普賢岳噴火による火砕流堆積物の上に,2001年11月にアカマツの当年生で菌根を持たない実生苗を移植した。無菌根苗は,種子をさらし粉で消毒してバーミキュライト上で育成することにより作成した。しかし,そのままでは植え付け時に傷つきやすく作業効率が悪いため,播種後4週間で掘り上げ,新しいバーミキュライトとともに直径約2cm,長さ15cmのろ紙の筒に入れて根系を保護した。これをさらに4週間室内で馴化させた上で,堆積物上に形成された小さな尾根の南側斜面,尾根上,北側斜面,谷筋近くの4カ所に24個体ずつ植え付け,うち半数にはろ紙の筒に入れる時点でコツブタケPisolithus arhizus (Scop. trans Pers.) Rauschertの胞子をまぶし付けることにより外菌根菌の接種を行った。

これを約1年間継続観察し,その後生存個体を掘り取って生長と菌根化を調査した。同時に,斜面上の南側と北側の2区では自記温湿度計(T&D, おんどとりTR-72S)による地上30cmでの気温と相対湿度の連続計測を行い,6月以降はテンシオメーター(ウイジン UIZ-SMT010)による深さ10cmでの土壌水ポテンシャルの連続計測も行った。

III. 結果と考察

プロットごとの植え付け後の日数と生存個体数を図‐1に示す。翌年春までは比較的多くの個体が生存していたが,谷近くのプロットでは6月の時点ですでに大部分(24本中22本)が枯死しており,うち16個体は乾燥死と考えられた。それ以外のプロットでもその後急速に生存個体が減少し,2002年10月4日まで生き残った個体は,合計96個体中24個体であった。南北斜面での生存個体数を比較すると明らかに北側斜面の方に多く,天然生個体が北側斜面にのみ見られたのと一致していた。また,菌根菌接種の有無は,最終生存個体数には影響していなかった。

図−1.各区の植え付け後の日数と生存個体

南北斜面の環境条件について,20分おきに自動計測した気温と相対湿度を,湿度は飽差に換算した上で日平均を求め,図‐2に示した。同様に,1時間おきに自動計測した深さ10cmでの土壌水ポテンシャルの日平均を図‐3に示した。

図−2.南北斜面での気温と飽差

図−3.土壌水ポテンシャルの変動

環境条件,特に水ポテンシャルは枯死要因となる水準(-1500kPa,永久萎凋点)には達しておらず,今回測定した範囲の環境条件では実生苗の枯死要因や南北での死亡率の差を説明することはできなかった。

観察終了時の実生苗の菌根化状態を図‐4に示した。北側斜面では生存個体の多くに菌根が見られたが,これは主に野生菌根で,近傍の天然生個体に定着していた菌根と共通のものと考えられる。一方接種したコツブタケは定着はしたものの不完全で,接種区にも非菌根の個体があり,接種が生存に影響しなかったのは菌根化が不十分だったからかも知れない。

図−4.実生苗の生存と菌根化状態
各区の左側が非接種区、右側が菌根菌接種区

北側斜面にのみ見られた野生菌根は付近の天然生個体と菌糸体で連絡していたが,これを形成した個体にのみ主軸の生長が見られ,明らかに生育が良好だった。大型個体と共通の菌根菌糸体に共生することで実生苗が炭素を含む資源の供給を受けられた可能性もある(山田,2003)。しかしコツブタケの菌根を形成していた個体の生長は非菌根のものと変わらなかったため,実生苗単独では有効なボリュームの菌根系を支えられなかったと考えられる。

天然生アカマツ個体のないプロットでは実生苗の生存自体も悪かったが,生存した個体にも野生の菌根の形成が全く見られなかった。撹乱地でも菌根菌は風や動物の作用で速やかに散布される(Allen, 1991)とされているが,調査地ではアカマツ実生苗に定着するのに有効な散布体は供給されていなかったと考えられ,また実生苗と同時に供給しても十分な効果が得られなかったことから,火砕流跡地にアカマツを定着させるには十分大きな菌根系を供えた苗が必要だと考えられる。

引用文献

(2003年11月14日 受付;2003年12月19日 受理)


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